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世界が認める京都・与謝野町のビーントゥバーチョコレートは、なんと製造機器から自作だった!

【与謝野町】
世界が認める京都・与謝野町のビーントゥバーチョコレートは、なんと製造機器から自作だった!

オーダーメイドの自転車屋さんが、チョコレートを作るようになった理由とは

健康志向から世界的に人気が高まっている高カカオチョコレート。近年ではカカオ豆からチョコレートに加工するまでを一貫して手がけるビーントゥバー(Bean to Bar)がブームとなり、カカオ豆がますます注目を集めています。日本でも少しずつ増えているビーントゥバーですが、与謝野町にある自転車メーカー「WELD ONE(ウェルドワン)」が手がけるチョコレートとコーヒーのブランド「YOSANO ROASTER」では、なんとカカオ豆を加工するマシーンから手作り!代表の小西栄二さんに自転車作りからチョコレート作りに至った意外な経緯とこだわりの製法についてお伺いしました。

はじまりは、世界に一つだけの自転車を生み出す溶接技術


丹後半島の付け根に位置する与謝野町。高級織物・丹後ちりめんの産地として栄えた「ちりめん街道」から車で5分、府道626号線沿いを走っていると赤い文字で「WELD ONE」と書かれた建物が目に入ります。

代表の小西さんは舞鶴の造船会社で溶接の技術を学んだのちに独立。高度なチタン溶接の技術を活かし、オーダーメイド自転車やオートバイのレーシングパーツを手掛けています。


さっそくショールームの中に入れてもらうと、個性豊かな自転車たちがボディを輝かせていました。一つひとつパーツやデザインが異なる自転車は、世界に一つだけの完全オリジナル。「誰かの真似をしても面白くない。今までにないものを生み出すことにやりがいを感じます」と小西さん。京都府溶接技術競技会で10度の優勝経験を持つ小西さんだからこそ生み出せる造形美です。


コーヒーとチョコレートを手がける「YOSANO ROASTER」始動のきっかけ


自転車愛好家たちから熱い視線を送られている小西さんですが、ある日、コーヒーの焙煎をしている自転車仲間から「焙煎機が壊れて困っているから新しいものを作ってくれないか」と依頼を受けます。「既製品を参考にしながら作れたけど、どうしても納得いくものができなくて」と、この出来事が小西さんの心に火をつけました。

溶接の技術を活かしながらも全くの新境地。「せっかくなら既製品と比にならないくらい美味しい焙煎ができるものを作りたい」そんな熱意のもと、2年の歳月をかけて自社製セラミックの遠赤外線ロースターを完成させます。


自転車のショールームの隣にある水色の建物がコーヒーとチョコレート事業を展開する「YOSANO ROASTER」。その中に焙煎機があるとのことで、中へと案内していただきました。 


一般的な焙煎機は直火や熱風式ですが、小西さんの焙煎機は備長炭と同じ遠赤外線加熱で焙煎する仕組み。表面を焦がすことなく、じっくりと豆の中まで熱することで、苦味や雑味を出さずに甘さや旨みを存分に引き出すことに成功しました。


遠赤外線焙煎のコーヒーは口当たりが優しく、一口飲めば豆本来のコクと香りが身体の奥まで広がります。「YOSANO ROASTER」では、遠赤外線焙煎の豆をオンラインショップや催事などで販売中。産地や焙煎具合の異なる豆が楽しめます。


遠赤外線焙煎を活かしたチョコレート作りへの挑戦


「素晴らしいコーヒーができたので遠赤外線で色々と焙煎してみようと思い、落花生、ピスタチオ、カシューナッツなど色々試しました」と小西さん。ふとカカオ豆の焙煎を思いつき、試しに身近な道具でチョコレートを作ってみたところ、あまりの美味しさにびっくり。「これはいける!」と、自家焙煎したカカオ豆を使いビーントゥバーのチョコレート作りへの挑戦をはじめます。


実際にチョコレート作りをはじめて直面したのがカカオ豆の皮を剥く大変さ。手作業だと1kg剥くのに2~3時間もかかり板チョコ20~30枚ほどしか作れません。「日本にはカカオ豆を剥いて粉砕する専用のマシーンがなくて、どうせなら自分で作ろうと思って」。誰かの真似をしても面白くないというモットーのもと、小西さんのさらなる挑戦がはじまりました。


全て一から開発した日本初のカカオ粉砕マシーン


国内に既製品がなく参考にするものがないため、全て一から開発する必要があったカカオ粉砕マシーン。しかし、製作期間はなんと半年というから驚きです。そんな中でも一切の妥協なく、こだわりが詰まっているとのこと。

操作は焙煎したカカオ豆を上から流し入れてスイッチを入れるだけ。1キロの豆を10分ほどで、皮剥きからチョコレートの原料となるニブの分別・粉砕までを行います。


「カカオの皮から出る微粉は肌につくと痒くなる人もいるんです。だから一切触れなくてもいいような構造にしました」と小西さん。実際に自分が使うからこそ、使い手に寄り添った機能が備わっています。

一番苦労したのは、カカオ豆を砕く刃物。使っているうちにカカオ豆の油分で目が詰まっていくため、5,6種類の刃物を試し、やっと何時間も使い続けられるものが完成しました。

現在は、展示会などで焙煎機やカカオ粉砕マシーンを売り込み、販売を行っています。「もうこれがないと困る」といったお客さんの声を聞いて、やっと完成の喜びが実感できたと思わず笑顔があふれます。


大切に加工したカカオがいよいよチョコレートに!


カカオ粉砕マシーンの発明で小西さんのチョコレート作りも格段と効率アップ。粉砕後のカカオニブは、店内にあるキッチンでチョコレートへと生まれ変わります。中では甘いチョコレートの香りが立ち込めていました。粗く砕いたカカオニブを砂糖と一緒に20時間かけ細かな粒子にしている製造途中のチョコレート。油分が出てトロッとした状態のものを特別に味見させていただきます。


こちらは1万本に1本あるかないかと言われている超希少なホワイトカカオ。少し舌触りが残る完成前のチョコレートは、カカオ豆のフルーツ感ある風味をダイレクトに感じられるフレッシュな味わいです。


この後、温度管理をして結晶化させ、テンパリングすることでやっとチョコレートが完成します。ここまでの工程を全て独学で一人きりでこなす小西さん。「他の人が10年かかることをいかに3年とか5年に短縮できるか。せっかくやるならトップを目指さないと」と、昼も夜も休みなくチョコレートと向き合っています。


世界大会で賞を受賞!カカオ本来の味を堪能するチョコレート


「YOSANO ROASTER」のチョコレートは、ガーナ、コロンビア、タンザニア、ベトナム、ベリーズ、ドミニカなどの産地別。タブレットのパッケージは、それぞれの国旗の色をもとにデザインしています。

甘さとのバランスを追求した結果、カカオは全て73%。自信があるからこそ余計なものは入れず、カカオと砂糖だけで勝負しています。「チョコレートの味を左右するのは、焙煎が8割」と話す小西さん。遠赤外線で焙煎したカカオ豆は焦がさないため、高カカオにも関わらず苦味が少なくとってもフルーティー!食べ比べてみると、一般的なチョコレートよりもカカオの個性がよく分かります。


中でもコロンビアは、2022年に世界一のチョコレートを競う大会「インターナショナルチョコレートアワード(ワールド)」のダークチョコレート部門で銀賞を受賞。焙煎機を作りはじめてから8年ほどで世界も認めるチョコレートが誕生しました。

しかし小西さんは、「自分のチョコレートに自信があったから、金賞がとれると思っていました」と、まだまだ現状には満足していない様子。トップを目指す日々は続きます。


タブレットのほかには、カカオの実をジュレにした世界初のボンボンも。産地ごとに形が異なり、こちらも食べ比べが楽しめます。チョコレートをかじると、中から甘酸っぱいジュレがじゅわり。フルーティーな味わいで、カカオってフルーツだったんだ!と衝撃を受けました。まさにカカオを丸っと堪能できる一粒です(右からタンザニア、コロンビア、ベリーズ、ベトナム、ガーナ)。


与謝野町をはじめ京都の魅力を世界へ発信していきたい


小西さんは京丹後市出身。与謝野町は奥さまの故郷です。「ここにきてもう20年近く。ちりめん街道や千年椿など素晴らしい場所があるから、外の人にももっと魅力を知ってほしい」と、地域の活性化にも意欲的です。丹後ちりめんシルクドリップフィルターは与謝野町の良さをアピールするために手がけた商品。現代の生活スタイルに合わせて、着物の生地である丹後ちりめんからコーヒーフィルターを作りました。


伊根町の酒蔵「向井酒造」が手がける「伊根満開」を使ったチョコレートもカカオ73%。滑らかなチョコの中にざらっとした酒粕の舌触りが程よいアクセントに。ロゼワインのような華やかな香りが鼻に抜けます。こちらは「インターナショナルチョコレートアワード(アジアパシフィック)」で銀賞を受賞。アルコールを飛ばしているので、お子さまでも大丈夫です。

宇治抹茶を使用したチョコレートは、よく目にするホワイトチョコではなく73%の高カカオ。一見普通のチョコレートに見えますが、一口食べると抹茶の爽やかな風味を感じます。フルーティーなカカオの味も負けることなく絶妙にマッチ。食べた後にすっきりとした余韻が残ります。


これからも自由な発想で人に役立つもの作りを


「こんなものも作っているんですよ」と小西さんが見せてくれたのは、分別後のカカオ豆の皮で作った和紙。自然ならではの優しい風合いは、皮の配合率を変えるだけで色の濃さに変化が。カカオ豆の香りを添えたレターセットは受け取る人を優しい気持ちにしてくれます。


ご紹介したチョコレートは、オンラインショップやイベント(ジェイアール京都伊勢丹「サロン・デュ・ショコラ 2024」会期~2月14日)のほか、2月にオープン予定の実店舗「YOSANO ROASTER」で販売。中ではイートインのほか、焙煎ワークショップなどのイベントも計画中です。開業準備と並行してドライフルーツを製造するための真空乾燥機や焙煎豆専用の選別機など、新たなマシーンの開発にも勤しむ小西さん。最後に新しいことへ挑戦し続ける原動力を聞いてみました。

「いつも人に役立つものが作りたいと思っています。毎日同じことを繰り返すことのほうが性に合わないし、常にいろんなことを考えていますね。マニュアル通りに生きても仕方ないですから、自由な発想で枠をはみ出していかないと」。柔軟にさまざまなものに挑戦する小西さん。今後の展開も楽しみです。

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