食らし旅

閉じる

食への想い

〈お茶の京都 三浦利夫さん〉 宇治田原町特産の玉露茶を用いて
ベテランシェフがふるまう西洋料理 手間と時間をかけ自ら育てた無農薬野菜を食材に

2021/03/03

map_ocha.png お茶の京都

1_rindenbaum_main.jpg

宇治市の南にあり、四方が山に囲まれている宇治田原町。宇治茶の主産地として知られ、あちらこちらに茶畑が広がります。
今回、訪ねた古民家レストラン[リンデンバウム]はそんな山間の集落の一角にあり、知らなければこちらが店舗だとまず気付くことができない佇まい。まるで、知人宅に出向いたような雰囲気で、料理歴45年のベテランシェフ・三浦利夫さんによる西洋料理が味わえます。
無農薬野菜や宇治田原町産の玉露茶を使った料理のことやこれまでのキャリア、そして、始めたばかりという自家菜園についても語っていただきました。

—開業20周年を迎える古民家レストラン

玄関で靴を脱ぐと、奥の厨房からシェフが直々にお出迎え。調理だけでなく、サービスもすべてお一人で切り盛りされています。店内は生まれ育ったご実家の一部を京町家風に改装し、築80年ならではの太い梁はそのまま活かした居心地のよい和洋融合の空間です。縁側はデッキにしてテラス席が設えられ、よく手入れされた庭が目の前に広がります。
シェフにとって2021年は、[リンデンバウム]を開業して20周年を迎える節目の年になります。春にはコンサートや楽しい催しを行う予定だそうです。

—料理に真摯に向き合う丁寧に作られる一皿

三浦シェフのモットーは「食の安全と安心」。顔が見える地元生産者から直接仕入れる新鮮野菜と自家菜園の無農薬野菜をふんだんに使った西洋料理を提供します。

ほとんどのお客さんがオーダーするという「シェフおすすめお手軽ランチ」は、メインにその日に届いた旬野菜がたっぷり添えられ、スープ、サラダ、デザート、コーヒー、パンまたはライスが付いて1700円。コストパフォーマンスが良すぎる嬉しいメニューです。メインは国産豚ヘレカツレツ有機玉露風味とシチリア風ハンバーグステーキの2種類をご用意いただきました。

ヘレカツレツはお茶の名産地という立地を活かし、贅沢に有機玉露を使用。カツを焼いている途中に玉露を少しずつ加え、最後の仕上げにもたっぷり振りかけます。口の中でお茶の香りが広がり、ほんのりとした苦さが不思議と豚肉とよくマッチします。西洋料理でハーブを使った肉料理のような感じでしょうか。焼いている途中で黒くなった茶葉も香ばしくておいしい。
ちなみに、京赤地鶏のソテーにも使われることもあるそうです。

そして、シチリア風ハンバーグステーキは、おいしく食べてもらうために注文が入ってから成形します。ハンバーグの上には、玉ねぎやナス、トマトなど煮込んだラタトゥイユとチーズをのせ、仕上げにデミグラスソースがかけられます。肉の旨みが詰まったハンバーグにチーズとトマト煮込み野菜、この最強コンビネーションは期待を裏切らず、幸せを感じさせてくれるテイストです。

この日のスープはポタージュでしたが、アサリを使ったクラムチャウダーやコーンスープ、ミネストローネなど季節に応じたものが付きます。
デザートにもお茶が用いられ、アイスクリームには抹茶の粉末が散らされ、ほうじ茶シャーベットはシェフの手作りです。ほかにも、天然酵母のパン、オーガニックコーヒーと「食の安全と安心」のモットーが現れています。

—ドイツ領事館の公邸料理人として活躍

三浦シェフは高校生の時から料理をすることが好きで、将来は料理人になると決めていました。20歳から料理の世界に足を踏み入れて以来、45年間にわたり料理界で生きてきたベテラン料理人です。
これまでレストランやホテル、京都国際会館、海外などで長く研鑽を積み、腕を磨いてきました。中でも30代で赴任したドイツ・ミュンヘンにある日本領事館で公邸料理人としての3年間にわたるキャリアは大きな財産になっています。
日本領事館の公邸料理人とはどんなことをするのでしょうか。
「一言でいえば、海外に赴任する館長夫妻の料理を作るのが主な仕事です。もちろん、それだけではなく、友好を深めるため客人をもてなすためのパーティ、年一回開催されるナショナルデー・レセプションがあり、そのときの食事の提供も行います」。

パーティでは招待客は10名ほどのコース料理ですが、天皇誕生日に行われるナショナルデー・レセプションでは、政治家や政府関係者、経済人や文化人のほか現地の要人、知人約200人が招かれたとか。
驚くことに料理人は三浦さんお一人だったそうです。さぞ大変だったのでは?
「大規模なレセプションは年に一度だけのことで、助っ人もいたので大丈夫でしたよ。人気の高い天ぷらをひたすら揚げていましたよ(笑)。ドイツ人スタッフには焼き鳥を担当してもらいました」。

現地で一番困ったのは食材の買い付けだったそうです。市場に出かけても日本とは勝手が異なり、何より言葉がわからないことがたいへんだったとか。ドイツ語を習いに行きつつ、実地でいろんな経験を積みながら習得していきました。市場には、均一でなない不揃いのさまざまな野菜や果実が並び、すべて量り売りです。「おかげで、素材を見る目は、このときに養われたと思います」と。

赴任中に近隣のフランスやイタリアを訪れたそうです。星付きレストランに訪れる機会にも恵まれ、本場ならではの味を自分の舌で確かめることができました。

—念願の野菜作り

帰国後、ホテルに勤める傍ら、開業の準備をすすめ、45歳のときに京田辺で念願の独立開業を果たし、7年後に故郷である宇治田原に移転しました。
帰郷したら、畑で野菜作りがしたいと考えていましたが、忙しくてなかなか時間が持てませんでした。
ですが、世界中を巻き込んだコロナ禍で、思わぬ時間ができました。そして、この機に農薬に頼らない無農薬野菜作りを始めてみようと。
とはいえ、誰に教わるわけでもなく、本やテレビから知識を得ながら手さぐりでの始動です。「見よう見まねでやってみましたが、発芽しなかったり、生育途中で枯れてしまったり…失敗ばかりでした」。
農薬を使わずに野菜を栽培するのは、プロの農家でも困難なこと。無農薬栽培がむずかしい理由は害虫がつきやすいことと、雑草が生えやすいことだそうです。店から車で10分のところにある畑に時間を見つけては通いますが、まさに無農薬栽培は虫と雑草との戦いだとか。

野菜を育てるのは雑草抜きだけではありません。最初の土作りも重要です。畑の石と雑草を取り除いて鍬で耕し、石灰や有機肥料などを使って、土をアルカリ性にします。野菜は酸性土壌ではよく育たないため、土壌のコントロールが必要だそうです。
また、植えどきがむずかしく、タイミングを逃すと”枯れたような野菜”しかできないとのこと。その年の天候にも左右されるので、ベストな時期を選ぶのは至難の業なのかもしれません。

—これぞ!料理人の醍醐味

料理歴は半世紀近くでキャリアは十分すぎるほどお持ちですが、「野菜栽培」はまだ始めたばかりで1年にも満たない初心者です。失敗を重ねる毎日ですが、これまでとは異なる世界は楽しいといいます。

「手をかけたら、かけただけ、ちゃんと生育してくれるのが嬉しいですね」。
何より、無農薬野菜は味がしっかりしていておいしい。必要な有機肥料しか使っていないので、野菜が甘やかされることなく丈夫に育ちます。地中にしっかりと根をはって養分を吸い上げようとするので、健康に育ち生命力にあふれています。

「自分で収穫した無農薬野菜を調理しお客さんに食べてもらい、『おいしかったよ』と言ってもらえる。それって最高の喜びであり、醍醐味を感じますね」。

現在65歳のベテラン料理人は、これからも自然の恵みが詰まった自家菜園と地元産野菜をふんだんに使った西洋料理をふるまっていきます。今後は隠し味に醤油や麹、味噌など和の要素も取り入れていくそうです。そして、ありきたりのものだけでなく、少し趣向の異なる料理も手がけたいとのこと。まだまだ向上心は尽きることはありません。これからの展開が楽しみです。

 

SHARE
Facebook
Twitter
Line