食らし旅

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食への想い

〈海の京都 橋本弘さん〉 水のきれいな伊根湾で育つ養殖ブリ
天然物に負けない美味しさと高評価
伊根の海を愛し、情熱を込めて魚を育てる

2021/03/03

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丹後半島の北東、周囲5kmほどの湾をぐるりと舟屋が取り囲む伊根の風景。
重要伝統的建造物群保存地区に選定される珍しい情景です。
舟屋の1階はいわば船のガレージで、人々の暮らしは漁業が中心。
特に寒ブリは伊根ブリと呼ばれるほど有名で、ブリしゃぶの美味しさは格別です。
伊根湾でブリの養殖を営む橋本水産の橋本弘さんを訪ねて、お話を伺いました。

—漁船に乗ってブリの生簀へ

伊根漁港そばの船着場に、取材班を漁船で迎えにきてくださったのは、橋本水産の橋本弘さんです。船は海を滑るように快調に走り、5分ほどで生簀に着きました。幸いお天気がよく、真冬にしては暖かで海風が心地よい。湾の入り口を守るように青島があるため、伊根湾は日本海にしては穏やかです。鏡のように凪ぐ日もあるのだとか。
例年なら寒ブリは年末に出荷を終了してしまうことが多いのですが、今年はコロナの関係でやや遅れ気味だそう。揺れる船から生簀の縁に片足をかけ、恐る恐る生簀を覗き込んでみると、透き通った水の中にまるまるとしたブリが数匹泳いでいるのが見えます。
橋本さんにブリを撮影したいとお願いすると、ひょいと身をこなし、大きな手網でたちまち掬い上げてくれました。1匹約9キロと重いのに、こともなげ。
「暴れるかと思ったら、意外におとなしいんですね!」と尋ねると、「水温が低いからね」と橋本さん。冬の間は餌を食べず、じっとしてることが多いのだそう。

—身が引き締まり、あっさり美味しい伊根ブリ

伊根町は日本三大ブリ漁場に数えられ、かつては養殖も盛んに行われていましたが、現在は生産量が減少し、橋本水産を合わせて2軒のみとなっています。
伊根湾は海水温が低いため、魚はゆっくり育ちます。そのためブリの身が引き締まり、脂ノリもほどよく、あっさりと美味しいのです。特に橋本水産の養殖ブリは身質がよいため、天然ブリよりも高い評価を得ています。

エサは若狭産のアジやサバ。夏は2日に一度、一日で約20万円分のエサを平らげてしまうとか。
「お金が海に消えていくようで、胃が痛いですよ」
そうして2年ほど伊根のきれいな海で育ち、8〜10キロの大きさになったブリはようやく出荷の時を迎えます。寒ブリとして11月〜3月まで、漁協のほかに東京や大阪など大都市圏のホテルや飲食店へ直接販売しています。橋本さんのブリを指名買いする取引先はクチコミで増え、直送の割合は今では漁協扱いと半々ぐらいになっているとか。

—海が好き、海の仕事をして暮らしたい

橋本さんが父親の元で漁業に携わるようになったのは23歳の時。22年前の当時は養殖業者は10軒ほどあったが、景気が悪く次々と廃業していくような状態でした。
「父は儲からないからやめろと言ったけれど、なおさらやる気になった。伊根の海が大好きで、海の仕事をして暮らせたら幸せだと思って」
生き残りをかけて、自分がなんとかしなければー。どこにもない美味しい魚を作るためにと育成法を見直す努力をします。それまではコストをかけないことがよしとされていたけれど、高くてもいいからエサにこだわろう。生簀の魚数を減らし密度を低くして、魚にストレスをかけずに育てよう。思い切って量から質へと転換を図ったことが功を奏し、数年のうちに軌道に乗って、赤字を解消することができました。
現在は橋本水産社長として、5人の社員とともに仕事に励む日々。冬の寒ブリに加えて夏が旬の岩ガキの養殖も行っています。

—生き物や自然を相手にする難しさ

それでも生き物が相手だけに神経をすり減らすことは日常で、「魚が逃げてしまう夢を見るくらい」と苦笑い。
年によっては思うほどに育ってくれないこともあり、情熱をかければかけるほど、反動で落胆も大きくなります。それでも熱量がないといいものができないと言い聞かせ、「自分の手から離れるときは思いを込めて、ありがとうという気持ちで送っています」。
自然と寄り添う仕事だから、海を汚せば自分に帰ってきます。赤潮も出たことのない伊根の海に負荷をかけないよう、10台の生簀に対してブリ6〜7000匹と限定し、養殖量を増やすことは考えていないとか。
今の願いは「もっと美味しい魚を作りたい、どこまでいっても満足しないと思う」。
目下そのための方法を研究中、特に一番重要なエサの改良に試行錯誤しています。

—伊根を元気にするために力を合わせて

2017年4月にオープンした観光交流施設「舟屋日和」。コーヒーやランチが楽しめるカフェと地魚と地酒の美味しい割烹、祭礼船の展示もあり、伊根を訪れる人々の憩いのスポットとなっています。この施設は「海の京都」伊根町実践推進会議の計画に基づくもので、橋本さんを含め3人の有志が協力して会社を立ち上げ、運営管理を担っています。

海側に面して建つカフェの2階からは伊根湾が見渡せ、コーヒーを飲みながらいつまでも眺めていたくなります。凪の海が赤く染まる夕暮れ時も絶景です。

「これまで観光に来られても、ゆっくりくつろいでもらう場所がなかったんですよ」
橋本さんが漁業とは畑違いの観光事業を支援するのは、伊根が活力のある町になってほしいとの願いから。
生まれ育った伊根の町と大好きな伊根の海がいつまでも元気であるように、これからも地域と力を合わせて活躍を期待しています。

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