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建築を通して豊かな暮らしを提案
魅力ある地域をめざす工務店の3代目

【舞鶴市】
建築を通して豊かな暮らしを提案
魅力ある地域をめざす工務店の3代目

食と人をつなぐホッと一息つける「KAN, MA Dining」

1952年の創業以来、舞鶴で住宅や店舗、社寺文化財、ビルなど様々な建築を手掛けてきた大滝工務店。この祖父の代から続く工務店の3代目を突然、託されることになった大滝雄介さん。
もともと家業を継ぐつもりはなく、大学卒業後は東京のIT企業でエンジニアとして働いていましたが、お父様の病気と会社の経営が危うくなったことで、息子である大滝さんに白羽の矢が立ち、2007年にUターンを決意。
悪戦苦闘しながらも経営を立て直した後、大滝さんは地元そのものにも目を向けます。そこで、遊休不動産を活用しカフェを併設したプロジェクト「 KAN,MA(カンマ)」を立ち上げました。
「工務店の仕事は家を建てるだけでなく、暮らしや街づくりも担う役割がある」と考える大滝さんに、プロジェクトの取り組みや今後の展望についてお聞きしました。

「自分でチャレンジする人生も悪くない」とUターンを決意


関東の大学を卒業後、東京の大手IT企業で働いていた大滝さんですが、お父様の病気や会社の経営が危うくなったことから、2007年に舞鶴へ戻ってきました。

「最初から工務店を継ぐつもりはなかったので、『戻ってこい』と言われたときは、とても悩みましたね。でも、自分でチャレンジする人生も悪くない、と考え決断しました。」


しかし、覚悟しての帰郷でしたが、当初はずいぶんとご苦労があったようです。

「かなりの負債を抱えていたこともあり、会社の存続も危ぶまれていた状況でした。当初は得意分野を使って、業務をシステム化しようと試みたりしましたが、うまくいきませんでした。今振り返れば、空回りしていたんですね。相手を理解せず、理屈を並べて突っ走っていたように思います。そのことに気が付いてからは、少しずつ歯車がかみ合い、うまく回りはじめました」。

努力と苦労を重ね、戻って3年目あたりから、プラスに転じるようになったそうです。

 

工務店という仕事に携わっていくうちに、いろいろと思うところが出てきたといいます。

「建築業はただ建物をつくるだけではなく、家づくりを通じてそこに住む人々の暮らしも大切にすること、魅力ある街づくりや景観を守るという役割も果たすべきではないか、と考えるようになりました。

実は、ずっと舞鶴の魅力について分からなかったんです。でも7年ぶりに戻ってみて、ここの街並って、情緒があっていいやん、と見直したんですよ。それからは、この古き良き風景を残していきたい、と思うようになりました。」

1200坪の遊休地を活用したプロジェクト「KAN,MA」を立ち上げる


経営が軌道に乗った頃から、大滝さんは社外でも街づくりの活動を行っていましたが、自社でも地域の新しいカタチを担う プロジェクト「KAN,MA」を立ち上げました。

「バブルの頃にうちが購入した1200坪の遊休地があるのですが、長年持て余していました。売却もできないのなら、この土地に理想のエリアをつくろうと思ったんです。緑と木に囲まれた寛ぎのある場所にしたいと思って「KAN,MA」の構想を練りはじめました。」

 

ただし、開発は様々な問題に直面したそうです。

舞鶴市は、第二次世界大戦の終結後、大勢の引揚者を迎え入れた歴史があり、今回、開発に着手しようとしていた土地には、引揚者を受け入れた施設が唯一残っていました。かなり老朽化しているとはいえ、思い入れをもつ方が何人かおられました。

「理解してもらうために一軒一軒、時間をかけて説明にまわりました。ようやく、ただ壊すのではなく、きちんとお別れをするための『見送る会』を開くことで、納得してもらえました。」

 

こうして2017年、建築家や庭園設計士、建築コンサルタントなど各分野のプロフェッショナルの力を借りて、より豊かな暮らしと街並を提案した複合施設「KAN,MA」が誕生しました。

敷地内には、分譲の家とともに、カフェの「KAN, MA Dining(カンマ ダイニング)」。また、開店当初は住まいの相談やショールームとして、現在はワークショップなどいろんな人が使えるレンタルスペースとして利用している「KAN, MA Living(カンマ リビング)」が併設されています。

「帰省してきた友人や知人を連れて行きたくなる、舞鶴にもこんな素敵なところができたよ、と自慢できる場所になっていると自負しています。」

地元素材が楽しめる「KAN, MA Dining


KAN, MA Dining」は、ほっとひと息つける、木のぬくもりが感じられるカフェです。

大滝さんから店を任されているのが料理長の谷川貴聡さん。

京都市出身で、1年半前に家族(妻と子供2人)とともに舞鶴へ移住してきました。

ご実家が割烹・居酒屋だった谷川さんは、幼い頃より自然と料理は身近な存在で、キャリアも20余年。充分な腕をもつ料理人がKAN, MA」で働くことに決めたのは、

「好きなものを作ってKAN, MAを彩ってください」という大滝さんの言葉だったといいます。

 

「大滝オーナーの言葉は、今まで雇い主から聞いたことがなく、新鮮でおもしろいと感じました。『ここを舞鶴にとって魅力ある場にしていきましょう』という提案や、カフェのテーマである、人のつながりを大事にしつつ、ゆっくりした時間を提供する、にも共感したので、ここで仕事をしたいと強く思いました。」

一番の人気メニューは来店する客がほぼ注文するという「限定プレート」1,500円。

月替わりのメインとスープに、雑穀米、近所の契約農園から届く旬野菜などを使った数多くの副菜が付くランチです。この日のメインは唐揚げのクリームチーズソースがけ。

 

「敢えてどの料理もシンプルな調理法にして、ほんの少し手間をかけたレシピにしています。そうすることで、目新しい感じになっておうちでも作ってみよう、と思ってもらえるかな‥と考えたからです。お客様は9割が女性で、特に平日は主婦層がほとんどなので、お皿には少しずついろいろ盛って品数豊富なワンプレートにしました。」

谷川さんのねらい通り、「これって、どのように作るのですか?」と聞かれることが多く、お客様と話すきっかけになり、距離が縮まることもあるそうです。

「近所の西芳寺に養鶏場があるのですが、ここの玉子が濃厚でとてもおいしい。ぜひ使いたいと思い、たっぷりと出汁を含ませただし巻きを作ってみました。そしたら、ふわふわ感が好評になり、いつの間にか名物になっていました(笑)。リクエストに応じてランチプレートには必ず登場させるようにしています。」

日曜日から水曜日は夕方までの営業ですが、金曜と土曜日は夜カフェもされています。夜は若い女性がひとりで、のんびり寛いでいることが多いとか。

カフェの奥の部屋には、おしゃれな雑貨店も。暮らしをおしゃれにするキッチン道具や独特の風合いをもつ小物類、京丹後を拠点にしているチョコレート店のスイーツも並びます。また、ヨガ教室などみんなが自由に利用できるレンタルスペースもあります。

新しい取り組みに挑戦する工務店


KAN, MA」の理念に共感し移住してきた料理長の谷川さんのように、大滝工務店にも東京や山口など他府県からやってくる若いスタッフが増えています。

「地元以外からも人材を集めるには、こちらからの発信は必要不可欠だと思います。うちでは、街づくりの観点をもって建築を行っていること、しっかりスキルが身に付くことなど、ここで働きたいと思ってもらえる情報を届けています。それから、職場の環境を整えることも大切で、思い切った改革も必要になってきますね。例えば、これまで業界の慣例だった土曜出勤や長時間労働などの見直しです。

他府県からの優秀な新入社員が入ってくると、受け入れ側の既存社員もしっかり教えるために勉強をはじめるんです。自然と人材の成長にもつながり、社内に活気が生まれます。

 

もちろん企業なので、利益の追求は重要ですが、それだけでなく、高いビジョンをもって営んでいけば、地方にいても輝く中小企業になれると信じています。そんなモデルになりたいですね。」

今後の「KAN, MA」の展開について大滝さんは―

「元パティシエのスタッフが最近入ってきたのですが、その子が焼くクッキーの評判がともいいんです。だったら、どこかに菓子工房をつくるのもありかも‥とか、社員食堂の運営、駅前にコーヒースタンドの出店などいろいろアイディアが湧いてきます。まだ、頭の中だけのことですけど()。一緒に働くスタッフによって次の展開をしていこうと考えています。」

 

地域や仲間と一緒につくり上げていく「KAN, MA」。

カフェに続く新たなステージがどんな形態になるのか、これからの広がりが楽しみです。


紹介情報

  • KAN,MA Dining(カンマ・ダイニング)
    TEL 0773-77-88970773-77-8897
    instagram
    ウェブサイト
  • 大滝工務店
    ウェブサイト

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