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きじ・鹿・猪の個性派肉を山あいで味わう
代々続く料理旅館を守り進化する自遊な思い

【笠置町】
きじ・鹿・猪の個性派肉を山あいで味わう
代々続く料理旅館を守り進化する自遊な思い

野趣溢れる笠置の名物鍋を伝えていく

笠置山の山頂付近にある料理旅館「松本亭」。生まれ育った家でもある五代目亭主の松本敏明(まつもととしあき、以下敏明)さんは「小さい頃、学校へは山道を自らの足で歩いて通いました。自分の子どもには車で送り迎えをしましたけれどもね」と、笑いながら話します。

時代が変わり自分たちも変わらないといけない。しかし、笠置町(かさぎちょう)にある料理旅館として、また、食事処として伝えたいことはさまざまあるという思い。

亭主を支える妻の松本孝子(まつもとこうこ、以下孝子)さんは「明治時代からの宿で老舗といわれればそうですけど、場所も田舎で山頂近くですから、形式張ることはないんです。この自然を自由に楽しんで、笠置山を感じながら味わっていただくきじ肉や鹿肉、冬ならいのしし肉のおいしさを知っていただきたいです」と語ります。

春は桜、初夏は新緑、夏は水辺、秋は紅葉、冬の静寂など、季節ごとに楽しみがある笠置山と名物鍋についてお聞きしました。


100年以上の歴史を刻む笠置寺門前お休み処の変遷


京都府の最南端、木津川上流の山峡にある静かな山里「笠置町」。渓谷のような地形が印象的で自然に囲まれた町は、四季折々の美しさがあります。その中心が「笠置山」です。国の史跡名勝に指定、京都府立自然公園としても知られている、奇岩や怪石が数多い神秘的なスポットになります。

 

山頂付近には、大岩面に掘られた弥勒菩薩を本尊としてはじまった奈良時代からの「笠置寺」があります。そして、門前のお休み処として始まったというのが「松本亭」です。

「明治231890)年に創業しました。父も祖父も早く他界したので、そのルーツは定かではありませんが茶店から始まって、笠置寺にお参りにお越しになる方が、泊まりたいといわれることもあるので、宿も開業したと聞いています。今でこそ車で山頂付近まで上がれますが昔は徒歩ですから、きっとこの場所に宿は必要だったんですね。」と、孝子さん。

「子どもの頃から慣れ親しむこの場所は、何でもある今の感覚とは違う不便な所です」と、話す敏明さんは、しかしその反面、他にはない豊かな自然があると言います。確かに、桜や紅葉はもちろんのこと、夏は、黄色い目をしたフクロウの仲間のアオバズクが子育てをしたり、9月中旬頃から12月頃まで笠置山上から雲海を見ることができたりするなど、ここでしか体験できないことがたくさんある場所です。

敏明さんは「40年前か50年前くらいでしょうか。山里にあるものでおいしいものはないのか。この宿を目指して食べに来ていただくような料理はどんなものだろうかと、父が探してきたのがきじ料理だったんです。そこから地道にコツコツと鍋などを出していたら、大阪や神戸、名古屋からのお客様が『おいしかった』と、いろんな方におっしゃってくださって、マスコミにも取り上げられて。とくに関西では珍しかったんでしょうね、口伝えにどんどん広がったようです。」

「宿泊は、12組限定または1グループ貸切ですが、文化的な趣味をお持ちの方々の合宿やサークルの発表の場として利用される方も多いので、平成元(1989)年に客室も含めて全亭のリニューアルをしました。音楽やダンスなどの活動ができるような多目的ホール「天空」と、囲碁や将棋などができる大広間「雲海」などがある宿へ。何度もお越しになる方も増えましたから、その他の料理も頼んでくださるようになりました。

冬には、ロースだけを使ういのしし肉でぼたん鍋(宿泊16,500円、食事7,500円/要予約)。あと、花札の猪鹿蝶ってありますけど、蝶を鳥として[きじ]にすればいいということで、猪鹿雉のコース(宿泊17,600円~、食事8,500円/要予約)もあって、ちょっと洒落の利いたこともしています。」と孝子さん。それぞれの個性的な肉について、どれも下処理が完璧なもので、鮮度が高いからこそおいしいと語り、それは、また食べたいと思うリピーターが増えた理由にもつながると言います。

女性が注目する高たんぱく低カロリーのきじ肉


噛めば噛むほど旨味がでるというきじ肉。高たんぱく低カロリーで脂質が少ないのも特徴で、身体のエネルギー代謝に必要なリンやカリウムなどのミネラルもたくさん含むというので、美意識の高い女性が注目をしている食材のひとつです。


このきじ肉を使う、きじ料理コース(宿泊15,400円~、食事6,500円~/要予約)は、モモ肉、ムネ肉を中心とした、きじ鍋、きじ石焼、きじ釜飯などが味わえます。肝やズリもしっかり入るきじ肉1羽分による、きじ尽くしコースもあって、きじ酒から、刺身、タタキ、塩焼き、小鍋に、きじ釜飯などが味わえます。


例えば、きじ鍋2人前なら、きじ肉は1羽分を仕入れて、首から下を余すところなく使用。きじの骨を入れた鰹と昆布の和ダシを使い、白菜、白ネギ、えのき、三つ葉、水菜、椎茸、人参、木綿豆腐野菜なども入れれば、ビタミン類も入るので、バランスが良くなるといわれています。

笠置寺の帰りなど気軽に味わえるきじ鍋


宿内には「和・café鹿鷺(かさぎ)」があります。宿泊や予約の食事とは違って手軽にきじ料理が楽しめて、きじ小鍋定食(2,500円)なら、小鉢からきじ小鍋、きじ釜飯、お吸い物、デザート付きです。また、きじ焼き定食(2,500円)は、きじ小鍋がきじ焼きに変わります。ほかにも、きじ鹿刺身、きじ鹿タタキが付く定食などがあります。

実は笠置町では「全国ご当地鍋フェスタ」を、2010年から開催しています。笠置町で全国の鍋料理の食べ比べができ、皆様の投票で鍋-1王者を決める鍋フェスです。コロナ禍で中止を余儀なくされていますが、このフェスの第3回目に鍋-1グランプリ優勝を果たして王者となっているのが「松本亭」「和・café鹿鷺」のきじ鍋です。


その時のことを思い出して敏明さんにお話いただくと「おダシを煮詰めると辛くなってしまうので、鰹と昆布のダシを別で作って、追いダシをするスタイルにするなど工夫しました。そもそもおダシは、ネックや手羽先が入るような鶏ガラならぬきじガラを使いますし、隠し味にごま油を使いますから、作ってすぐに提供する宿やレストランとは違うことを、よく考えて気を遣いました。


あと、きじ肉や野菜などをちゃんと均等に味わっていただきたかったので、仕切りのあるおでん鍋を使い、一人分を明確にして出しましたし、もう一つ提供の方法にも気を配りましたね。これは招待枠で出場した4回目のことでしたが、アツアツで味わっていただきたかったから紙鍋を使って、固形燃料とかもお渡しするスタイルにして。なかなかいい経験になりましたし、時代は変わっていくものだなとより実感できました。」

家族のようなおもてなしを大切にされている「松本亭」。10年ほど前から「自遊宿(じゆうやど)」という名称をつけていらっしゃいます。


老舗ではあるけれどもカジュアルな感覚で気軽にお越しいただきたいという思いと、いろんな遊び方ができる宿であると伝えるための言葉です。そして、敏明さんの五代目としての気持ちが表れている言葉でもあります。


「変わらないと、変われない」という考えのもと、守るべきものは守り続けても、時代に合わせた変化をしていくべきだと思われている敏明さん。宿へお越しなる方々がお目当てにする、名物のきじ肉・きじ料理、鹿肉や冬のぼたん鍋などは変わらずでも、ワーケーションなども視野にいれながら人々のニーズに合わせていこうとする姿勢をお持ちです。


笠置山を目指して訪れたい、アットホームなお宿。笠置町では、春の桜まつり、毎年11月から約1か月間開催される笠置山もみじ公園ライトアップなどイベントも多数あります。自然に包まれる時間と名物のきじ料理を味わう、自遊な時間を楽しみませんか。

紹介情報

  • 松本亭/和・café鹿鷺
    TEL 0743-95-20160743-95-2016
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