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一軒家レストランでいただく地元野菜たっぷりの “京田辺フレンチ”とは?
【京田辺市】自然に囲まれた京都の一軒家レストラン「ルスティク」のおもてなし
京田辺の丘陵地にぽつんと佇むフレンチレストラン。
周囲に建物はなく、山や田畑、竹林が広がる風景の中に、不思議と黒基調の外観が溶け込みます。オーナーシェフの樺井俊之さんは、11年前に故郷である京田辺に戻り[ルスティク]を開業。地元産の食材を使った“京田辺フレンチ”でゲストをもてなします。
今回は、樺井シェフに故郷である京田辺に対する思いや、そこで育まれた特産物について伺いました。
有名建築家・中村好文氏が手がけた、自然の風景を望む居心地良い空間
「ようこそ。お待ちしておりました」。満面の笑みで出迎えてくださった樺井シェフ。
現在は、8席の店内を調理からサービスまで一人で切り盛りされ、まるで、親しい友人宅に訪れたような和やかな雰囲気がします。黒基調の外観とはうってかわって、白をベースにした店内は天井が高く、自然光が降り注ぎます。
入ってすぐ目に飛び込んでくる広い窓からの眺めは、何も遮るもののない自然の風景。風に揺らめく竹林や畑、山。店名の「ルスティック」が意味する「田舎の」というイメージに似合う場所です。
設計をお願いしたのは、心地よい住まいを手がける有名建築家の中村好文氏。シェフをサポートしてきた奥さまの「自然の中にありながら、ハイセンスな感じがいいな」という、思いが叶った店舗になっています。
ランチ・ディナー共通、コースのみ(要予約) 6300円・8800円・1万2700円
今回、用意いただいたのは前菜と魚料理。
どちらも京田辺産の野菜がふんだんに使われています。網目模様のガラスの器には、色彩豊かな野菜の断面が美しい土佐酢のゼリー寄せやトマト煮込みの黒豆、クワイチップと菊芋のムース、熟成豚で作った自家製ソーセージなどが盛られ、華やかな一皿です。
魚料理は大分産一本釣りのキジハタのムニエルと皮つきエビイモのフリットに菜の花のソース、千切りにした千枚漬けをトッピング。メイン料理にも必ず季節野菜のソースを添えられるそうです。
野菜は地元産がほとんどで、それ以外の肉や魚などは顔の見える信頼できるところから、味と安全にこだわった食材を仕入れています。
採れたて野菜の味を活かすため、和食の考えをフレンチに取り入れる
樺井シェフは京田辺の代々続く農家に生まれ、菓子作りが大好きな子どもだったそうです。将来は菓子だけでなく料理にも関われるフレンチの料理人をめざします。
入学した調理師学校では、フランスで半年間の研修を経験し、卒業後は京都の元田中にあったフレンチの名店で研鑽を積みます。その後、他店でも腕を磨きながら合間をぬってフランスに足を運ぶなど、クラシカルなフランス料理と長く向き合ってきました。
昔ながらのフランス料理が好きで、ずっと追いかけてきたシェフですが、年を重ねるごとに少し重たく感じるようになったといいます。
「40歳で、独立開業の場所を、生まれ育った京田辺に決めてから、それまで作ってきた料理がどんどん変わっていきました。縁あって日本料理の料理長を務める方からアドバイスをいただく機会があったことも大きかったように思います」。
フレンチは、いわば足し算の料理といわれ、一方、和食は引き算の料理。全く異なる真逆のジャンルとの融合をめざしました。
「実際に京田辺の野菜を用いて今までのように調理してみると、素材が持つ元々の味がわからなくなるんです。採れたて野菜の美味しさを活かしたほうがいいに決まってる、と思っても、それをどのようにすればいいのか…。最初は手さぐりでしたね」
素材の形や味の輪郭を活かしつつ、長年付き合ってきたフランス料理の感覚や手法も取り入れたい。試行錯誤を続けながら厨房に立つ毎日だったといいます。
京田辺のこだわり野菜や特産品を活用した「京田辺フレンチ」
「10年経って、ようやくこれまで目指してきたスタイル “京田辺フレンチ”ができた、と自信をもっていえるかな…」。謙虚なお人柄が伺えます。
“京田辺フレンチ”とは今までシェフが培ってきたフランス料理の延長線上にあり、こちらに足を運ばなければ味わえないフレンチです。
「京田辺には、こだわりの農法で作られている野菜、新しい種類の野菜作りにチャレンジする若い農家さんがいます。そんな食材たちがどんどん料理の幅を広げてくれるんです」。
来店したお客さんに地元産野菜を使った料理を楽しんでもらい、京田辺の野菜の魅力を知ってもらうことで知名度アップにつながれば…という思いもあるとのこと。
地域に貢献したいと思い、特産品を使ったオリジナルメニューにも力を注ぎます。
その代表が一休寺納豆のマカロン。一休寺・酬恩庵の副住職が来店する機会があり、「せっかくだから一休寺納豆を使ったものを」と考え、ひらめいたそうです。
一休寺納豆は、室町時代の僧・一休宗純が製法を伝えたとされ、現在は一休寺でつくられています。糸を引く納豆ではなく、大豆を発酵させる、中国の麻婆豆腐に使われるトウチと似たもの。
この一休寺納豆をオーブンで乾燥させ、ミルで細かく挽くと発酵の臭みが軽減されるとか。そしてそれをバタークリームと合わせ、マカロンにサンド。口に入れると甘みの中にほんのり塩気が溶け込み、絶妙なさじ加減の味になります。お汁粉に塩を加えたイメージで作られたというこの珍しいマカロンは、すっかり店の名物となり親しまれています。
昨年からご実家のお米作りもされているシェフですが、自ら収穫した米とネギを使った、冬になると登場する土鍋ピラフも好評。米の収穫を祝う郷土料理「ねぶかめし」にヒントを得たもので、「ねぶか」とはネギのことだそうです。
田舎すぎないところがいい…帰郷してからわかった地元・京田辺の魅力
「実は僕も帰郷するまで自分の地元のこと、あまり知らなかったんです。なので最初は良さがよくわかっていませんでした。ですが、周囲を見渡すと野菜をはじめ、あれっ?こんないいモノがあったんや、というふうに、どんどん目につくようになってくるんですよ。そうするとだんだん愛おしくなってきてね…」。
お客さんにメニューを説明するとき、やたら京田辺という言葉を連呼してしまうため、「シェフ、京田辺が本当にお好きなんですね」と言われることもしばしば。地元愛が自然とあふれ出てしまうようです。
そんなシェフに改めて、京田辺のよさを伺いました。
「田舎すぎないところかな。ひと昔とは違い、けいはんな学研都市として開発され、同志社大学もでき、アカデミックな雰囲気が漂うようになりました。松井山手を中心に少しおしゃれになりインフラも整ってきましたが、豊かな自然も残ります。そのバランスが気に入っています」
最後にシェフがモットーとしている「足元を大切に」についてもお聞きしました。
「人はみんな外側に幸せを求めがちですが、足元である地元を見れば、必ずよいものがあります。よいところが見つかれば、自分がいる場所も捨てたもんじゃないと思えるはず。隣の芝生ばっかり見ていると疲れますよ。僕も時々、足元を確認して、今ある幸せを感じています」。
クラシカルなフレンチ一筋だった樺井シェフが試行錯誤しながら進化させていった“京田辺フレンチ”。
地域に根付いた“美味しいもの”を味わいに、また、穏やかなシェフに会いに、ぜひ一度足を運んでみてください。