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東京でも人気!京都・福知山の「鳥名子」名物は鴨肉とネギのみのシンプルな「鴨すき」

【福知山市】
東京でも人気!京都・福知山の「鳥名子」名物は鴨肉とネギのみのシンプルな「鴨すき」

全国的な人気を誇る鳥料理専門店「鳥名子」が仕掛ける地域活性化

戦国武将の明智光秀が築いた城下町の福知山市。
また、日本海と京都や大阪への交易の中継地点として繁栄した街です。
古い町並みが数多く残るこの街で40年前に創業した[鳥料理専門居酒屋 鳥名子]。
地元と東京を合わせて6店舗を展開する人気店です。
また、飲食店のほかに 古民家をリノベーションしたホテル[菱屋]も運営されています。
今回は、明治期の旧家を改修した[とりなご久兵衛]へ伺い、二代目の足立悠磨さんに店の名物「鴨すき」やこれまでについて、また、地元への思いなどをお聞きしました。


[とりなご久兵衛]の店内

明治期に建てられた古民家を活かした「とりなご久兵衛」

20206月にオープン。 福知山では鳥名子の3店舗目となる[とりなご久兵衛]は、京都銀行の源流となる治久銀行を福知山に設立した呉服商の片岡久兵衛の元お屋敷を改装しています。地元経済の発展に貢献した片岡氏へのリスペクトをこめて、「鳥名子(とりなご)」だけでなく、片岡氏の下のお名前「久兵衛」を入れた店名にされました。

[とりなご久兵衛]の店内からの眺め

国の登録有形文化財になっている建物は、明治、大正、昭和の各時代に建てられた木造の母屋と離れからなり、風情があります。とても広く、客室は大小10室以上あるとのこと。中でも一番奥にある大正期の建物は、座敷の天井に今では手に入りにくい希少な「霧島杉」を使っているそうです。襖や板戸などの建具や調度品は当時の一流の作家や工芸家によるもので、多くの政財界の人々を迎えるための設えといわれています。中庭には立派な松や灯篭があり、美しい日本庭園を眺めながら名物の鴨すきをはじめとする鳥料理が楽しめます。

[とりなご久兵衛]のエントランスに併設されたお土産処「広小路ミ・アーゲ」

エントランスにはお土産処「広小路ミ・アーゲ」を併設。明智光秀をモチーフにご近所の広小路商店街と福知山市在住のイラストレーターが共同開発したタンブラーやマスキングテープ、手ぬぐい、マッチなどオリジナルグッズを購入することができます。独特の世界観を持ったユーモアあふれるアイテムは、店に訪れた記念の品にもなりそうです。

[鳥料理専門居酒屋 鳥名子]の名物・鴨すき鴨すきは1人前3,000円。2人前から注文できる。

不動の人気を誇る鳥名子名物の「鴨すき」

鳥名子に来店するほとんどのお客さんが注文するという名物の鴨すき。

創業以来、人気を誇る鴨すきは、たっぷりの白髪ネギと美しく盛られた鴨肉のみの鍋です。

実のところ当初の鴨すきは、他にも具材が付いていましたが、「鴨とネギだけが一番うまい!」という常連さんの一声から今のスタイルが誕生したそうです。

シンプルな料理だからこそ素材にこだわり、ゆったりと自由に動きまわり、ストレスなく育てられた柔らかで上質な肉質をもつ京鴨肉が提供されます。

はじめに、昆布とカツオベースの薄口ダシにつみれを入れ、鶏肉と鴨肉、生姜、ゴマなどを合わせたつみれからコクと旨みがダシに広がったら鴨肉とネギを。煮すぎると身がかたくなってしまうので、鴨肉は15秒、ネギは5秒を目安にさっとダシにくぐらせます。鴨肉の旨みを存分に味わったら、お好みで柚子胡椒、七味、山椒などの薬味で味わいの変化も楽しめます。

肉の脂の甘みが感じられ、ダシを吸ったネギとの相性も抜群です。

締めはラーメン、うどん、自家製そば、雑炊を選んで旨み成分たっぷりのダシを味わい尽くすのがおすすめになります。

インタビューに応える[鳥料理専門居酒屋 鳥名子]の二代目・足立悠磨さん

創業40余年、福知山から東京や茨城へ広がる店舗展開


関東にも店を構え全国的に名が知られている鳥名子が創業したのは、46年前の1976年のこと。現在代表を務める足立悠磨さんの父・直美さんが、本店となる御霊神社の裏参道前で開業しました。

鴨すきをはじめ、さまざまな鳥料理を提供し、開店してすぐに繁盛店の仲間入りをされたそうです。来店するお客さんは顔なじみが中心でしたが、20年前に店を改装してからは新しいお客さんがたくさん来られるようになりました。それまで内輪だけで好評だった鴨なべが、口コミでどんどん広まり、遠くからも大勢のお客さんが来店するようになったそうです。

 

直美さんは若い頃、東京に長く住んでおられたこともあり、多くの友人・知人が遠方よりはるばる足を運ばれたとか。その度に「東京にも店を出してほしい」とたくさんの方からオファーがあったそうです。

そこで、「馴染みと土地勘のあるところやし、やってみよう」と直美さんの還暦にあたる2011年、東京・恵比寿に店を構えました。続いて三軒茶屋、茨城県ひたちなか市にも出店することに。

店舗数が増え、一人では対応が困難になった直美さんは、ご自身が関東地方の3店舗を運営し、東京で学生生活を送っていた悠磨さんに福知山本店を任せることにしました。

[柳町]の外観

交流の拠点も兼ねた鳥名子2号店「柳町」を福知山に開業


悠磨さんは子どもの頃からお父さんの背中を見て育ち、店の手伝いをずっとされていたので、家業を継ぐのは自然な成り行きだったといいます。

ただ、久しぶりに故郷に戻ってきて「東京ではいろんな人と話す機会があったのに、こちらでは、人と出合う場が少ない」と感じたそうです。

「この街にも僕と同じようなことを考えている人間がいるのではないか。高い技術や能力を持ちながら活かす場がない人たちもきっといるはず。場所と機会があれば、つながることができるのに…」。

そのようなことを漠然と考えていたとき、実家の隣が空き家に。好機到来と捉え、「この場所で思い描いていたことをカタチにしてみよう」と動き出しました。

こうして2015年、福知山で鳥名子の2号店となる、明治期の町家を改装したレストラン・カフェ&バー[柳町]が開業しました。

地域でつくられたものを中心に選りすぐりの食材や調味料、器などが使われています。もちろん名物の鴨すきも味わえますが、地元産の京地どりと大江町の濃厚な玉子を使った親子丼などこの店限定の鳥料理も楽しめます。

お客さんのなかには、職人や生産者など“つながりの場”を求めて来店する人も少しずつ増えていったそうです。

[菱屋]の外観

店が交流の拠点としても機能し始めた頃、「古民家をリノベーションしませんか」という話が舞い込みました。その呼びかけが、2020年に開業した高級志向のホテル[菱屋]の創業につながっていきました。

悠磨さんがホテルを建てようと考えられたのは、福知山にはビジネスホテルしかなく、街の風土や文化を示す宿泊施設がないのを残念に思っていたからです。

大正時代の建物を全面改修した[菱屋]は、丹州材のヒノキや古来より受け継がれてきた丹波漆、黒谷和紙を使った壁紙など、地域の素材や伝統技術をふんだんに採用してつくられています。地域の特色を取り入れたことが高く評価され、世界的に影響力がある「Dezeen Awards 2021」と「Frame Awards 2021」で最終選考に残る快挙を果たしました。

[とりなご久兵衛]の外観と街の風景

地域資源である古民家を再利用して街を活性化させたい


[菱屋]、[とりなご久兵衛]、[柳町]が位置するこの界隈はかつて、由良川の水運を利用した物資の集散地であり、数多くの豪商や問屋が軒を連ねていたそうです。また、悠磨さんの実家もあり、子どもの頃よく遊んでいたところです。

慣れ親しんだ場所に空家が増え、賑わいや風情が薄れていく姿を目の当たりにして危機感をもったといいます。

[鳥料理専門居酒屋 鳥名子]の二代目・足立悠磨さん

何か打つ手はないかと思いをめぐらせたとき、浮かんだのが古民家を利用して地域の活性化を図ることでした。

「他府県や市外から多くの人がやってきて、街の文化や伝統、食を評価してくれれば、地元の住民も“街の良さ”に気づくのではないか、という期待もしているんですけどね」。

人を呼び込むために、柳町にさまざまな店ができるようプランを練っているそうです。

「店舗の展開は、鳥名子の系列店を増やすというより、地域みんなで活性化させていきたいので、僕はコネクターのような存在になって開業のサポートをしていくつもりです」。

出店の計画がスムーズにすすむように、“自称・柳町のディベロッパー”として、空き家を改修・再生させ、市民が誇れる街にしようと奮闘されています。

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