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庭園と趣向を凝らした料理
ゆかりの地で味わうここだけの松花堂弁当

【八幡市】
庭園と趣向を凝らした料理
ゆかりの地で味わうここだけの松花堂弁当

老舗料亭の洗練された空間で、五感で愉しむ日本の四季

京都府南部に位置する八幡市は、日本三大八幡宮の一つで国宝の石清水八幡宮の門前町として発展してきた、歴史と文化が息づくまちです。その八幡市が、日本人の美意識を凝縮した弁当ともいわれる、松花堂弁当ゆかりの地であることはご存じですか?

関西有数の名勝「松花堂庭園・美術館」に併設する「京都吉兆 松花堂店」で細やかな店づくりを続ける店長兼料理長の大槻隆昌さんに、松花堂弁当や日本料理への思いについて伺いました。


国指定名勝の庭園を眺めながら過ごす上質なひと時を


八幡市に静かにたたずみ、訪れる人々を癒しているのが2002年にオープンした「松花堂庭園・美術館」です。約20,000㎡の広さがある庭園は回遊式で、敷地内には江戸時代初期・寛永文化の中心人物であり、特に書において近衛信尹(このえのぶただ)や本阿弥光悦らとともに「寛永の三筆」と称された石清水八幡宮の社僧・松花堂昭乗(しょうかどうしょうじょう)ゆかりの草庵「松花堂」や、登録文化財の「泉坊書院」、3つの茶室があります。

また、40種類を超える竹・笹類や、200本以上の椿のほか、梅や桜、紫陽花、青もみじや紅葉など四季折々の景観を楽しむことができ、どの季節に訪れても見どころの多いスポットとして人気です。

庭園を訪れた人のもうひとつのお楽しみが、併設する料亭「京都吉兆 松花堂店」です。茶懐石に基本を置き、日本料理の発展を築いてきた、言わずと知れた老舗料亭です。

 

店の暖簾をくぐると、店内一面の大きなガラス窓から庭園が眺められ、季節の移ろいを感じられる贅沢な空間で食事をいただけます。店内奥には座敷もあり、庭園散策の前後はもちろん、ささやかな記念日やお祝い事など、大切な日に訪れる方が多いのもうなずけます。



美しさと機能を兼ね備えた松花堂弁当


同店を訪れる多くの人のお目当ては、やはり「松花堂弁当」です。その理由は、「京都吉兆」がこの八幡の地で料亭を営む理由と深く関わっています。

 

1933年、「吉兆」創業者・湯木貞一が茶会のために八幡を訪れ、昭乗が好んで使っていたという十字の仕切りがある器が小物入れとして使われているのを見つけ、その箱を料理の器にできればと松花堂弁当を考案しました。十字に仕切ることで料理の味が他に移らず、それぞれの仕切りに盛られた品々を一度に味わうことができると、美しさと機能性を兼ね備えたお弁当として一般にも広く浸透しています。



歴史や景観とともに味わう松花堂弁当を


「松花堂弁当 雅」では、まず、向附として菜の花と白魚の酢の物が運ばれ、ひと足早く春の訪れを料理から感じられます。


椀汁は、創業以来、「京都吉兆」が最も大切にしてきた一品。この日はていねいに出汁を取った透き通った汁物と、旬のハタと蕪の優しい味わいに心がほぐれます。



金目鯛など三種のお造里盛り合わせでは、お醤油だけでなく、ふきのとうの苦みがアクセントのもろみ味噌も用意されて、刺身本来の食感を損なわずに味わうことができます。



次は、いよいよ松花堂弁当です。季節の八寸と焚合(たきあわせ)、焼物、すき焼きから構成され、フタを開けると彩りよい盛り付けに思わず歓声が上がります。季節の八寸には福豆やイワシのオイル煮、金柑とセリの白和えなど立春の季節を感じる品が詰められ、焚合は大根と竹の子、しいたけ、ほうれん草に金時人参といった食材の持ち味をそれぞれ大切に生かして盛り合わせられています。焼物のサーモンの西京焼きには、くわいの田楽に、椿の花を模した蕪があしらわれ、椿の名所である松花堂庭園の散策の余韻が楽しめそうです。


ところで、一般的に「お弁当」といえば常温のイメージがありますが、「京都吉兆」の松花堂弁当は作りたてがこだわり。釜の炊き立てご飯と松花堂弁当のすき焼きからは湯気が上がり、「温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいまま味わってほしい」という心尽くしを感じます。


ご飯の後には、デザートも。この日は「京都吉兆」でお客様に長く愛されているというフルーツゼリー寄せでした。



一つの箱にたくさんの品が詰まっていながらいずれも喧嘩しあわず、味わって幸せな気分になれるのは計算されつくしたバランスと、受け継がれてきた「京都吉兆」ならではの下ごしらえがあるからこそ。「日本料理には足し算ではなく、引き算の方が重要です。松花堂弁当ゆかりの地で、歴史や景観とともにここだけのお弁当を味わってほしいですね」と、店長兼料理長の大槻さんは笑顔で語ります。


日本文化を担う料理人として続く試行錯誤


京都府綾部市で生まれ育ち、日本料理人の父親の背中を見て育った大槻さんは、高校卒業後、自然な流れで、同じ日本料理の道へ進もうと、「京都吉兆」の門を叩きました。松花堂店一筋で修業を積み、もうすぐ20年目になります。

 

取材中、大槻さんからは「趣向を感じてほしい」という言葉を幾度となく伺いました。「献立は、基本的にその月、その日に『いい食材』を使います。それに加えて夏はハモ、冬はクエやハタ、春先はハマグリといった、その季節ならではの食材を取り入れるなど、毎月試食会を開きながら試行錯誤しています」と語り、季節や旬のものを大切にする「京都吉兆」の一期一会のこだわりを感じます。


また、器選びも大切にされています。「季節感があり、食べ物の寸法にも合う器選びが大切です。それらを弁当箱に詰めることで、器同士の美しさが融合して美味しさを感じられます」と大槻さん。お弁当箱は構造上、平面的になりやすいため、器同士の色合いにも気を付けているそうです。器と料理のバランス感覚が重要なため、「京都吉兆」の他の店舗の名器に触れたり、日ごろから上質なものにアンテナを立てて感性を磨き続けられるよう努めているそうです。



地域外の人にも八幡の魅力をもっと届けたい


松花堂店では、できるだけ地元・八幡の食材も味わってほしいという思いから、トマトやキュウリ、朝どり大根、葉物野菜などの地物野菜も積極的に料理に取り入れています。

 

毎年、4月中旬には地元農家から朝どり竹の子を仕入れます。新鮮さゆえに、ぬかを入れずに湯がく竹の子は、気温によっても香りや食感が異なるという繊細なもので、旬の時期も出始めの“はしり”から“本格的な旬”、そして“名残り”と、味わいが変わります。どのタイミングで召し上がっていただいても、お客様には地元の春の味を堪能していただけます。

 

夏には、目の前で調理する鮎の塩焼きを好きなだけ味わえるイベントを店で主催し、大好評の大槻さん。また、「松花堂庭園・美術館」のライトアップの際には特別メニューを披露するなど、「地域外の人にもっと八幡の魅力を知ってもらうため、できることをやっていきたいですね」と、地域の観光振興と連携した事業も好評です。

 

松花堂店の見どころを伺うと、「おすすめは全部ですね」と爽やかに言い切る大槻さん。料理はもちろん、空間やおもてなしも一体で味わってほしいという、日本料理の文化と店への誇りを感じます。五感が喜ぶ、八幡ならではの上質な料理と空間を味わってみてください。



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