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元バンドマンが京都の里山で京野菜を作ることになった理由

【京丹波町】
元バンドマンが京都の里山で京野菜を作ることになった理由

京丹波の農業発展を願う元バンドマンの思い

大熊ファームの大熊明宏さんは、京野菜の万願寺とうがらしや伏見とうがらし、丹波特産の黒豆ほか季節野菜を低農薬で栽培する京丹波の農家です。
今でこそ農業の若き担い手として活躍されていますが、もとは埼玉県生まれのバンドマン。音楽とアルバイトを掛け持ちし自由を謳歌していた大熊さんが、全くジャンルの異なる農業になぜ携わることになったのか。「僕の農業人生は、人とのつながりでここまで来ました」と語る大熊さんに、将来の目標とともに話を伺いました。


大熊ファーム代表 大熊明宏さん

清浄な空気に包まれた、山あいの京丹波町で就農

京都市内から高速で約1時間半、清流・上和知川の両岸に山が連なる下粟野地区。1月下旬、大熊さんへ会いに地区に足を踏み入れると、周りは雪景色へと一変しました。
2005年に丹波町、瑞穂町、和知町が合併して誕生した、豊かな自然が残る静かな町の主要産業は農林業。丹波栗をはじめとする丹波ブランドの生産地としても知られています。

ここで農業を営む大熊さんは、約9年前に京丹波で就農しました。冬はほうれん草や春菊、白菜のミニチュア・わわ菜を、初夏から秋にかけては京野菜の万願寺とうがらしや伏見とうがらし、丹波の黒豆枝豆、米を低農薬で栽培しています。

就農した当時は、京丹波に深い思い入れはなかったそう。「農業をしたいと思っていたら、この場所にたどりついたんです。今も農業を続けていられるのは、地元の人達のおかげ」と大熊さんは話します。彼がなぜ京丹波にたどりついたのか。その発端は約10年前までさかのぼります。

農業の面白さに気づいたきっかけは群馬での農家研修

埼玉県出身の大熊さんは、バンドメンバーの1人として音楽活動を続けるかたわら、アルバイトを掛け持ちする自由な暮らしを謳歌していました。しかしバンドが解散、さまざまな仕事に携わる中で、小学生時代に体験した米作りが頭をよぎり農業に関心を持ち始めます。

そんな時、農業研修や独立を支援する企業の社長からアルバイトをすすめられたこともあり、2010年ごろから高原野菜を栽培する群馬県の農家で研修をスタートしました。
同期のスタッフと、野菜の収穫のほか水やり種まきなどを、朝4時から夕方6時まで毎日続けたと言います。

「部活のように同期とワイワイ楽しみながら農作業に没頭できたんです。農業に必要な体力もついたし、朝型のリズムに自然と体を慣らすこともできました。なにより農園のオーナーが、やりたいことを自由にやらせてくれたことが、就農するきっかけになりました」と大熊さん。
ともすれば過酷なイメージを持たれがちな農業で、野菜を育てる楽しさ、面白さを純粋に実感できたことが、就農への確実な一歩へとなりました。

「人との縁が、僕を農業に導いてくれた」

そして三重県から京都府へと研修地を移転しながら、2年後の2012年に京丹波で就農。とはいえ、就農したてで先立つものがなかった当時は「何を育てて生計を立てたらよいか不安だった」と言います。そんな時に手を差し伸べてくれたのが、地元の人々でした。

「住む場所を探していたら、どこからか聞きつけた管理人さんが、シェアできる一軒家を紹介してくださって。おまけに『畑も貸すよ』とも。ありがたかったですね」と振り返る大熊さん。
また、地元の農家で構成する「農民組合」の当時の組合長が、農作業用の資材を集めてくれたり、どの時期に何の野菜を育てるとよいかをアドバイスをしてくれたりと、親身になって応援してくれたそう。

新参者にも親切に接してくれる地元の人々に感動した大熊さんは、この地で農業を続けることを決心。やがて次のステップへと踏み出します。

新規就農者から、新規就農者をサポートする側へ

「9年前までは僕も新規就農者でした。その時に皆さんが僕にしてくれたことを、今度は僕が新規就農者にできたらとの思いで始めました」と語ります。

今、大熊さんが取り組んでいることは新規就農者のサポートです。「手取り足取りマンツーマンで教えるというよりは、本当に困った時に役に立てるような存在でいたい。きっとその人のやり方があると思うから」。

例えば二毛作のやり方をアドバイスしたり、農業に必要な資材の調達などを行っているのだとか。その背景には「農業の担い手になってくれる人を大切にしたい。彼らの後に就農者が加わったら、今度は彼らがサポートする側になってほしい」との思いがありました。

現在は、リタイアしてセカンドライフを充実させるべく農業に従事するシニア層はもとより、20代の若い世代まで約20名が新規就農者として参入中。今後も仲間を増やすべく、大熊さんは活動を続けています。

規模の拡大と研修生の雇用が今後の目標

今年は例年にないほどの霜に野菜が凍ってしまうなど「自然相手の仕事だけに常に苦労はつきものです」と大熊さん。

一方で、手塩にかけて育てた野菜が高値で売れた時の嬉しさはひとしお。「収穫した野菜がちゃんと評価されると、農業をやっててよかったなと思います。作るからには高く買ってもらいたいですよね。僕も経営者なので、上手に商売することも考えないと」。

最近は1人でできることに限界を感じているそうで、業務拡大を計画中。「特に繁忙期は人出が足りていない状態なので、研修生を迎え入れたいと考えています。育てた野菜をより多くの人に食べていただくためにも、新しい農業従事者を育てるためにも頑張ります」と語ってくれました。

野菜を提供するだけではない、その先の未来を見据えて

美味しい野菜を消費者に届けるだけではなく、新規就農者のサポートも行い、農業の将来を見据えて積極的に活動している大熊さん。そしてアルバイト時代の店舗に育てた米を提供したり、研修時代の仲間と連絡を取り合ったりするなど、今まで出会ってきた人達との縁も繋いでいる。

「今まで農業をやってこれたのは、人との出会いがあったから。このご縁を大切に、地元に貢献できれば」。

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