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筒川そば打ちから始まるディープな伊根体験!

【伊根町】
筒川そば打ちから始まるディープな伊根体験!

舟屋だけじゃない!?伊根町の魅力

こんにちは、食らし旅編集部です。今日は、舟屋群で有名な伊根町にやってきました。あたりを見渡せば、穏やかな海にカモメたちが舞う…そんな風景を想像してしまいそうですが、静かな雨に包まれた山並みと田んぼが広がっています。舟屋群のある地区は、伊根町のほんの一部。少し車を走らせると、浦島伝説の伝わる浦嶋神社や高さ100メートルにも及ぶ布引滝(ぬのびきのたき)などが現れます。美しい里山が広がる、もう一つの伊根町の風景。今回ご紹介する「筒川(つつかわ)そば」は、この地域のなかで食べ継がれてきた郷土食です。

そば打ち体験スタート

「こんにちは」。玄関で出迎えてくれた松山義宗さんと一緒に、早速そば打ちを始めましょう。


松山義宗さん

「筒川そばは8割がそば粉、2割はつなぎの小麦粉です」。計量した粉とぬるま湯をボウルに入れ、手際よく混ぜ始めます。蕎麦の分量は一人分150グラム、毎朝そばを仕込む義宗さんは秤を使わなくても感覚で分かるそうです。

時間をかければ水分は乾いてしまうし温度も下がってしまう、ここは適度な時間で捏ね上げるのがポイントだと教えてくれました。


少しすると、そば粉が白からグレーに変わってきました。「これがこね始めのサインだよ」。両手で生地をまとめるように、力強くボウルの中で捏ねます。すると、だんだんとそばの香りが立ち上がってきました。粉のポロポロとした状態から、あっという間につやのある生地へと変化していきます。

まとまった生地には艶とほど良い弾力があり、まるでぷっくりとしたお肌のようです。ぐっと近寄ってみても、とってもきれいですね。

次は、いよいよそば打ちです。打ち粉をほんの少し撒いてから、延べ棒を使ってグッと伸ばしていきます。

「そば打ちをしているところは、これまでに見たことがあるでしょう。“延ばして”いるのに“打ち”というのを、不思議に思ったことはない?」言われてみれば、確かにそうです。「筒川そばは、本当に“打つ”んだよ」。そう言って、義宗さんは少しずつ円形に延ばした生地を延べ棒に巻きつけ、台にトントンと打ち付けます。この動作は、筒川地区では昔から受け継がれてきたとのこと。

くるくる

トントン

延ばして、巻きつけて、打ち付けて。何度も同じ動作を繰り返すうちに、生地は滑らかに均一に伸びていきます。まさに職人技ですが、義宗さんは調理やそば打ちの修行をしたことがないそうです。「もともと筒川そばは地域の人たちが日常食として家庭で作ってきたもの。職人じゃないと作れないということはないでしょう」。それにしても、自由自在に生地を扱う腕前にはうっとりです。心なしか、生地も気持ちよさそうに見えてきます。

どんどん薄くなっていく生地。少し触らせてもらうと、想像以上の薄さ!親指と人差し指でつまんだ時に、指の腹の感触や体温が分かるほどでした。「打ち粉は必要最小限にね」。そうしないと、どんどん生地の中に練りこまれてしまうためだそうです。ですが、初心者の体験コースでは難しそう…「最初はやっぱり、均一にできなかったり破れてしまったりしますよ。それも自分が打ったとなれば美味しいし、僕もサポートしますから。皆さん最後まで出来ているから安心してね」。

完成した生地には打ち粉をたっぷりと撒いて、優しく畳みます。「この時の打ち粉はゆがく時に落ちるから大丈夫ですよ」。さあ、麺切り機へ運びましょう。


包丁と台の間にはベアリングがセットしてあり、包丁を持ち上げると自動的に横へ移動する仕組みなのだそう。高く持ち上げると太い麺に、少しだけ持ち上げると細い麺になります。

「じゃあ切りますね」。掛け声と同時にトントントン…あっという間に細い麺が出来上がります。これも最初はなかなか均一な太さに切れないようですが、ここまできたら少しくらい不格好でも愛着が湧くというもの。

もちろん、義宗さんが切った麺は均一でとても美しい姿をしていました。

待ってましたの実食タイム!

調理場へ移動すると、鍋にはたっぷりのお湯が沸いていました。麺を落として、噴き上がってくるのを待ちます。

数十秒で勢いよく湧き上がるお湯に「びっくり水」をさします。

一瞬静かになった水面にそばの泳ぐ姿が見えて…あぁもうたまりません!早く食べたいという思いも湧き上がります。

また沸騰したら、もう一度びっくり水をさして。3回沸騰したら素早くざるで掬って、流水で引き締めます。

茹でたての麺は、まさにツヤツヤと輝きを放っていました。つるりとした表面にそば粉のわずかな凸凹が見えて、先ほどまで粉であったことを思い出させます。

お出汁と薬味を添えて、お膳に載せて。さあ、いただきます!そばの香りがふわりと口内に広がり、ほどよい弾力は飲み込むのが惜しいほど。つるんっとした喉越しもたまりません。昔は地域の中だけで食べられていましたが、現在では毎年11月上旬に「筒川そばまつり」が開かれるほどの名産品になりました。そのきっかけは昭和50年代に行われた水田の作物転換です。収量も増えて、地域の産品として生そば・そば加工品・乾麺などを開発。現在、生そばを食べられるのは天橋立にある「ワインとお宿 千歳 Chitose」、道の駅・舟屋の里伊根のすぐそばにある「なでしこ」、そして体験会場でもある「イタリアンレストラン PIENO(ピエーノ)」の3箇所です。中でも通年で食べられるのはピエーノのみということで、人気メニューなのだそう。

ごちそうさまでは終わらない?

さて…皆さん、きっと「なぜイタリアンレストランでそば打ち体験をするのだろう」「なぜ義宗さんは洋食のシェフの格好をしているのだろう」。気になっていますよね。思い切ってご本人に聞いてみましょう。

「僕は長いこと建築の仕事に関わっていて、大阪や東京で働いていたんですよ」。伊根町で生まれ育った義宗さんは、進学と同時に故郷を離れました。都会では大きなプロジェクトをいくつも抱え刺激的な日々を過ごしたとのこと。しかし人生の岐路に立った時、胸に浮かんだのは郷里の風景でした。都会で積んだキャリアを生かして地域に貢献したいと8年前にUターンをされます。

その当時から取り組んでいるのが「薦池(こもいけ)大納言」という小豆の栽培。伊根町にある薦池地区のみで栽培されていることからその名前で呼ばれています。その実はぷっくりと大きく、一般的な小豆と比べてみると違いが良くわかります。炊き上げた小豆はさらに大きくなり、まるで他の品種の豆のよう。


左が一般的な小豆、右が薦池大納言、右上は炊いた状態

他の地域でも栽培してみたところ1年目は同じ大きさの小豆が実りましたが、2年目には普通のサイズにしか育たなかったと言います。一体、薦池にどんな秘密が隠されているのでしょうか。義宗さんは、この小豆を育て上げる環境を守りたいと、薦池地区全ての畑を借りて、栽培を担う農家へは市場価格での買い取りを続けています。この小豆から商品開発をしたい。そのために借り受けた場所が、PIENOが入る「浦嶋館」でした。

伊根への愛が止まらない!

レストランと食品の加工施設を兼ね備えた浦嶋館の管理人として、独学でイタリアンを習得!地域の産品を紹介するために「“名産筒川そば”そば打ち体験」も開始したのです。数々の展開には、地域への熱い想いがありました。「もともとお店をやる予定はなかったんだけれど、縁があって。だけど、レストランを開けば農家から野菜を買い取ることができるというのは大きいよ。作ってくれたものは、全て市場価格で買い取るというのが僕の信条」。だんだんと、ただのそば打ち職人ではないことが明らかになってきます!


浦嶋館

さらに、「まだまだ知られていない伊根の魅力を発信しようとドローンを購入し4Kの動画制作もやっているよ。農業用ドローンパイロットは地域の若手の副収入となるように考えています」。さらにさらに、浦嶋館にはレンタルバイク(自転車)も設置されています。自転車による観光は、次世代の観光ツールとして世界中で注目を集めているそう。伊根町をはじめとする丹後の各地域で、「e-BIKE(イー・バイク)」というスポーツ仕様のフレームにモーターを搭載した電動アシスト自転車による観光が始まっています。この日も、e-BIKE事業を営む若者がレストランを訪れて、義宗さんと今後の計画について話をしていきました。

終わりに

筒川そばのそば打ち体験をしに行ったら、伊根町の秘めた魅力が押し寄せてきた・・!今日の体験は、新しい扉を開いてくれました。噛みしめるほどに風味を味わうそばのように、少し足を伸ばせばディープな伊根町が待っています。舟屋群を満喫した後は、どうぞ筒川そば打ち体験に来てみてくださいね!お腹がいっぱいになったら、e-BIKEで地域の探検もお忘れなく!

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