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かやぶきの里・京都美山でいただく若手料理人と猟師のチームによる絶品ジビエ

【南丹市】
かやぶきの里・京都美山でいただく若手料理人と猟師のチームによる絶品ジビエ

獣害をくい止め里山を守りながら、美味しい郷土料理を提供する

美山町といえば地井地区にある「かやぶきの里」が有名ですが、他の地区にもかやぶき屋根の民家が数多く点在しています。
中でも、築150年の古民家レストラン「ゆるり」のかやぶき屋根はとても立派で存在感たっぷりです。このかやぶき屋根は大きさでいえば美山のトップ3に入るとか。このレストランは料理人の梅棹レオさんがご夫婦で営まれています。
また、増え続ける害獣問題を解決するために事業組合を立ち上げ、新たな手法で活動されています。どのような想いで取り組まれているのか伺うべく、梅棹さんの元を訪れました。

母の古民家レストランを引き継ぎ、美山の旬を味わう料理を提供

お母様が切り盛りしていた古民家レストランを引き継いだのは今から8年ほど前の2012年のこと。中学校卒業まで住んでいた故郷に15年ぶりに戻った梅棹さん。京都市の調理師専門学校卒業後、10年以上にわたって飲食業に関わり、妻の悠里さんも料理人だったので「いつか、小さくてもいいから自分たちの店を持ちたいね」と話していました。店を継ぐ話があったのは30歳のとき。考えていた予定より少し早めでしたが、これもタイミングと思い引き受けました。

ずっと洋食店で修業を重ねてきたので、最初はこれまでの経験とスキルを活かした料理を供してきましたが、「日を重ねていくうちに、なんか違うような気がする…」と違和感を覚えるようになりました。
小浜まで行って鮮魚を仕入れていたこともありましたが、「ここで刺身を出してもな…」と思いやめたそうです。

いろいろと模索した結果、ジャンルにこだわらず、春は山菜、夏はアユ、秋はキノコやマツタケ、冬はジビエという風に、「この地で育まれた豊かな素材を使って、美山料理を楽しんでもらおう」という答えにたどりつきました。

ジビエの概念を覆す逸品から美山牛乳のスイーツまで

この日のランチコース3300円の最初に登場したのは、梅棹さんが解体処理し調理したシカ肉のロースト。見た目はローストビーフのようですが、赤身で脂が少なく、とてもあっさりしています。低温調理でじっくり火を通しているのでジューシーさが損なわれていません。柔らかく、かつ歯ごたえも充分。本当にジビエ?と問いたくなるほど、今までの概念を覆す逸品です。

囲炉裏でじっくり焼いた厚揚げは香ばしくて味わい深い。ちなみに店名の「ゆるり」とはこの土地の方言で「いろり」という意味だそうです。
寒い時期に供されるのは鍋料理。鰹だしと美山で育てられる匠京地どりから取ったスープに塩のみを加えたシンプルな塩鍋です。白菜や大根など野菜にスープが染み込み、旨みを際立たせます。


デザートは、悠里さんが手がける美山牛乳のアイスクリームと湯葉屋さんのおからを使ったブラウニーケーキ。おからが入っていると言われなければ、全然気がつかないほどしっとりした上品なスイーツです。

古民家民宿もされており、泊まれるのは一組限定なので、実質一棟貸となり、かつ美味な食事の提供もあります。この静かな環境は、まちがいなく贅沢な時間を過ごせることでしょう。

食の好循環を目指し、猟師を志す

かつて働いていた飲食店では朝から晩までずっと忙しくしていましたが、こちらではゆっくりと時間が流れます。その時間を使って、地元猟師からシカの解体方法を教わりました。何度も繰り返し、ようやく解体の手法を身につけたものの、果たしてこの肉はおしいのか…。味が気になり始めました。

そこで、東京でレストランを経営している一番信頼できる友人のシェフにシカ肉を吟味してもらうことに。「このクオリティの鮮度と肉質をもつシカ肉を東京で得ることはできない」というお墨付きをもらうことができました。「美山のシカ肉はおいしいんや」と自信をもつことができました。さらに、シェフからは継続して送ってほしいと嬉しい依頼も。

シカやイノシシなどの野生鳥獣の流通方法は、牛や豚などの家畜とは異なります。ジビエの解体・売買を行う場合、食肉処理業や食肉販売業の許可が必要で、それは個人にではなく施設に与えられるものだそうです。許可を得るには解体処理を行う施設を作らなければなりません。
「それなら、敷地内にある蔵を食肉処理業の施設にしたらどうか…」。そんな構想が、後の[有限責任事業組合 一網打尽]設立へとつながっていきます。


仲間と共に里山を守る事業組合「一網打尽」を設立

近年、野生動物が里に下りてきて、獣害が広がっています。これは農家にとっても死活問題で、丹精込めて作った農作物が獣害を受けると売り物にならなくなります。また、自動車とシカとの接触事故の多発化、田畑を囲う電気柵や金網フェンスによる農山村風景の破壊など里山の環境はこの数十年で著しく変化しています。

梅棹さんは、幼なじみである4代目の猟師と一緒に獣害の問題について、どうすれば解決できるかをことあるごとに語り合ってきました。
そして、自分たちの地域を守るために、また、みんなが事業を続けていくためにも、獣害をくい止めようと仲間と共に[有限責任事業組合 一網打尽]を2016年に立ち上げました。[有限責任事業組合]とは、民法上の任意組合と株式会社のそれぞれの良いところを取り入れ、法人でも個人でもない新しい事業体です。

[一網打尽]では自ら捕獲も行いますが、契約している地元の猟師が捕獲してきたシカとイノシシを原則すべて買い取り、解体、精肉、販売まで全て一貫して行います。猟師も買い取り先があれば、狩猟するモチベーションにつながります。とはいえ、シカやイノシシの肉を地元だけでは食べきれません。そこで販路を日本全国のレストランに広げています。害獣駆除をしながら労力に応じて報酬が支払われるという、自ら作ったしくみで、臭みがなく新鮮で滋味あふれる美山のジビエ肉を届けています。

食用肉の流通とは異なるジビエ肉

ジビエは野生動物なので、畜産されている食用肉と同じように安定供給はむずかしいもの。天候や状況によって変わってくるので、豚肉や牛肉と同じようにはいきません。
冷凍庫には入りきれないくらい在庫過多の時期もあれば、反対に注文に応じられないくらい肉が足りないときもあります。ジビエの安定供給やバランスをとるのは、5年目を迎える今でも悩みの種だそうです。


ジビエは需要と供給のバランスのむずかしさもさることながら、最初に口にする料理の味によって大きく印象が変わることもやっかいなところかもしれません。鮮度が悪く、臭みのあるジビエ料理を一番はじめに食べてしまうと、ジビエに対してずっと拒否反応を起こしてしまうことが多いからです。

おいしいジビエ肉をふるまうポイントは、調理方法と鮮度を落とさない解体だそうです。それに加えて、肉質の見極めも必要だといいます。ですが、ジビエは野生ゆえ、この目利きは一朝一夕に身に付くものではないとも。
というのも、ジビエは飼育・管理されていないので、食べている餌がそれぞれ異なります。それは肉質の違いにつながり、また季節や雄や雌によっても変わります。さらに病気をしたり骨折した個体は味が落ちるそうです。
解体作業でその辺りを見極めて、状態の悪いものは廃棄し流通しないようにします。これは信用問題にもかかわってくるからです。
例えば、「これがご注文の雌のシカ肉です」と言われれば、それを確かめる術もなく信用するしかありません。食はお互いの信頼関係の上で成り立っているのです。


もはや獣害は里山だけの問題ではない

京都市内でもシカやサルが現れ、今や獣害は里山だけの問題ではありません。
獣害を放置しておくと、畑が荒らされてしまい野菜の供給が困難になり、すぐ価格に反映されてしまいます。となると都会に住む人間にとっても無関係でいられません。
「獣害を里山だけの問題」ととらえずに、街中で暮らす人も自分たちの問題として考えてほしい」と訴えます。

人は里山に、獣は奥山に。両者が住み分けていた“かつての風景”を取り戻すために、梅棹さんたちは「増えすぎた野生鳥獣と里山に暮らす人々とが適正なバランスで暮らせるよう、シカ・イノシシをおいしく食べてもらう」という活動を、使命感をもって続けられています。

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