- #おいしい
- #お茶の京都
出産を機に“食”の大切さを再確認
女性シェフが元気になる一皿をふるまう
【城陽市】
地産地消をテーマに城陽産の野菜をふんだんに使った料理で笑顔に
近鉄電車「寺田駅」から歩いて8分ほどに店を構える[欒~ouchi~]。
2020年7月にイタリアンからリニューアルオープンした洋食レストランです。
新しくシェフに就いたのは、30歳前半の若き女性料理人の河本由依さん。
地産地消をテーマに薪窯を巧みに使いこなし、城陽産の野菜をふだんに用いた料理でゲストをもてなします。
シェフへの大抜擢に、プレッシャーを感じつつも引き受けたときの心境や、意気込みについて教えていただきました。
シェフは大役だけど、それでもやってみたかった
「もう一歩、踏み込んで、視野を広げてみないか」。
2年半、カフェの厨房を任されてきた河本さんですが、思いもよらない提案に驚きました。その一方で、料理の師匠と仰ぐ大先輩に「認めてもらえた」という嬉しさもあったと。
レストランとカフェ、食パン専門店を運営する「株式会社 simple plan」に籍を置き、ずっと調理に携わってきましたが、レストランのシェフを担うのはかなりのプレッシャーです。「それでもやってみたい、挑戦したい、という気持ちの方が勝ってしまいました(笑)」。
その強いモチベーションはどこから沸くのでしょうか。
それは出産後に再び働きたいと思ったとき、自問自答して出した「本気で料理人になる」という決意と覚悟にあるのかもしれません、といいます。
出産後に料理人になることを決意
小学校の時からお菓子作りが大好きな女の子でした。自分で作ったものを「おいしい」と言ってもらえるのが何より嬉しかったそうです。大人になったら飲食の方面で働きたいな…と漠然と描いていました。
結婚するまで飲食店の厨房に4年間立っていました。料理の基本や技術は実地で学びながら腕を磨きました。メニュー数がかなり多かったことは、料理の幅を広げとても勉強になったとか。
そして結婚し、一人目を出産、その2年後に二人目を授かりました。子育てと家事をしながら、外の世界で働きたい思いが日に日に募っていきました。
今の自分に何ができるのか…を考えたとき、料理しかないと思ったそうです。
ですが、「本当に自分は真剣に料理人になりたいのか」と確固たる自信がもてませんでした。それを確かめるために「食生活アドバイザー」の資格を取得しようと決めたのです。
資格を得るためには、栄養学や健康面、食文化、食品学、衛生管理など食全般について広く学ばなければなりません。学習することで、今まで身に付けてきた知識や教養が本当に正しいのか、確かめたい思いもあったそうです。
ですが、子育て・家事との両立はかなりの努力が必要です。そこまでして本気で働きたいのか、自分自身を試す意味もありました。努力の甲斐あって、無事に資格取得。それは就職するときの自信にもつながりました。
地産地消をテーマに地元野菜をふんだんに
食と健康の深いつながりについては、離乳食を作りながら常に感じていましたが、食全般を改めて勉強したことで、やはり切り離せないものだと確信しました。
そしてそれは、「自分が手がける料理は、自分の子どもに作るのと同じように、体によいものをお出ししたい」という思いにつながりました。
幸運なことに、城陽市は完熟の大粒イチジクや甘くてホクホクな寺田いもなど農産物が豊富で恵まれた環境です。
その土地の気候や土壌に適した旬の野菜は、大地の恵みがつまっていて、文句なしにおいしい。また、地元産なら輸送する時間が短い分、新鮮な状態で届けてもらうことができます。自然が育てた新鮮な野菜は栄養価も抜群です。
また、野菜には、ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。特に旬野菜に多いビタミンは、皮膚や粘膜の健康を維持したり、コラーゲンの合成をサポートし丈夫な血管や筋肉、皮膚を作るのを助けるといわれています。食物繊維は「腸の掃除役」として知られて、腸内環境を整え生活習慣病の予防に役立ちます。
「大好きな野菜のチカラを借りて、みんなが元気になるおいしい料理を作っていきたいんですよね」。
薪の窯をフル活用した料理
キッチンでひと際、存在をしめす薪窯。パチパチと音を立てて臨場感を演出します。
薪窯は前菜からメインまでフルに使われ、食材の表面をこんがり焼き、中はしっとり仕上げます。この必要以上に水分を失うことなく調理ができるヒミツは、対流熱により食材の外側をパリッと焼き、同時に遠赤外線効果で食材の内部を熱していくからだそうです。
ただし、使いこなすのは日々の経験を積み重ねていくしかないのがむずかしいところ。火の入れ加減、置く場所によって温度が変わるので、その辺りを習得しないとおいしい窯料理を提供することはできません。
人気のメイン料理、ハンバーグは最初にフライパンでギュッと旨みを閉じ込めてから、窯でじっくり火を通すことでふっくらジューシーに仕上がります。ミンチに粗挽きを加え、肉々しい味と異なる食感が楽しめるよう工夫されるそうです。デミグラスソースはフォン・ド・ヴォーからダシを取り作られるとか。河本さんが料理に誠実に向き合う姿勢が伺えます。
横にたっぷり添えられた野菜もすべて窯で焼きあげたもの。旨みが凝縮され「お野菜ってこんなにに甘かった?」と問いかけたくなります。
薪窯の出番はメインだけではありません。
運ばれると、ほぼ全員が「うわー」と歓声をあげる前菜にも使われています。
色とりどりの多種多彩な野菜に牛ローストビーフや24か月熟成の生ハムが盛られ、とっても贅沢な前菜。ちょっとずつ、たくさんの野菜料理が堪能できる一皿は、間違いなく女性の心を射止めるでしょう。
15種類の葉野菜が入ったサラダには河本さん自家製のドレッシング6種類で食すことができます。
その名称は「ドレッシングの方程式」、なかなかユニークです。人参とオリーブオイルを使った「負けない」という名のドレッシングなら、免疫力アップでウイルスに負けないという意味に。効用というより、そういう気分になりますよという形容詞が付けられています。
女性料理人の枠を広げたい
一から手作りするソースをはじめ、手間ひまかける仕込みや調理、サービスもすべてお一人でこなされます。
さぞかし、ご苦労があるのではないでしょうか。
「苦労…ですか?(長めの沈黙)今のところないですね(笑)」。
時間をかけての仕込みや、すべて一人で何もかも担うことは苦労ではないようです。
「好きなことに関わらせてもらっているので、今は楽しくてしかたがないっていう感じなんです(笑)」。
とはいえ、失敗はあるようです。
窯に入れていた料理を他の作業に気を取られて焦がしてしまい、お客さんに出したくない仕上がりになったことも。そんなときは「申し訳ありません」と謝り、お時間をいただいたといいます。
ところで、子育て(9歳と7歳)との両立もたいへんでは?と余計なお世話の質問をぶつけてみました。
「それは、たいへんですよ」とこちらは即答。
料理界はずいぶん女性料理人が増えましたが、まだまだ男性料理人の方が多いのが現状です。
「どうしても拘束時間が長くなる業界なので、子育てしながら働くのはキツイ職種だと思います。“それでもやれるよ”ということをみんなに知ってほしいんです、おこがましいですが。そのためにパートくらいの短時間でも働けるママさん料理人の環境もつくっていけたらいいなと思っています」。
小柄で華奢な河本シェフに、どこにそんな熱いパワーが潜んでいるのか…。見た目から想像できませんが、目の輝きがそれを物語っているように感じました。
野菜はサラダだけでなく、煮込み、ソテー、蒸し、デザート、ソースなどいろんな可能性をもつ万能な素材です。さらに野菜は体を健康に導き、かつ体の中からキレイにしてくれます。これからもさまざまな野菜を使った料理を創意していきたいという河本シェフ。今後の活躍と挑戦に注目していきたいですね。