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京都の農家のオーガニック野菜を消費者へつなぐ移動式八百屋「369商店」
【南丹市】地域で生産したオーガニック野菜を地域で消費する
南丹市園部町には、オーガニック野菜を届けてくれる移動式の八百屋さん「369商店」があります。元は酪農家が住んでいた場所を住居兼出荷場にしている古民家に、鈴木さんを訪ねました。
地元野菜が地元で消費されないという矛盾
もともとは仏様などをつくる木彫りの仕事をしていた鈴木さん。南丹市に移住して家庭菜園をはじめたのが野菜と関わるきかっけだったそうです。2010年ごろ、当時南丹市で有機野菜の栽培と農法の技術開発を行っていた会社で集荷・配達のアルバイトを始めると、オーガニック野菜への興味はぐんと高まりました。その中で、鈴木さんはある矛盾を感じたといいます。
「南丹市や亀岡で育ったオーガニック野菜は、ほとんどが京都市内など、いわゆる都会に運ばれるんです。けれど地元の人は、スーパーでほかの地域から運ばれてきた野菜を買っている。もうほんと、10分も車で走れば質のいいオーガニック野菜が手に入るのに、です」
作り手の個性が感じられるオーガニック野菜を、地域の人にも手に取ってほしい
その原因は「価値観がない」ことではないか…と鈴木さんは考えたそうです。
ひとつの農家が田畑を耕し、牛を飼い、木を伐って山菜を摘んでいた戦前、農業は暮らしと密着した循環型の生活でした。しかし戦後は、食料の確保と安定供給をめざし、規格どおりの野菜を大量生産する産業としての農業にシフトチェンジ。化学肥料や農薬を使用することが当たり前になりました。
農家に生まれ育った人にとって、産業型農業は当たり前すぎて、わざわざオーガニック野菜を手に入れたいという価値観が生まれないのではないか。実際、現在南丹市周辺で有機栽培野菜を手がけているのは、オーガニック野菜の魅力を追って都会から移住し、新規就農した若者が多いのです。
「農業技術が上がったことや、一定の質の食べ物が潤沢に確保されたことは産業化した農業の良い面でした。けれど今、新規就農した若手農家さんたちは熱心に研究して、栽培方法も販路も個性的でユニーク。オーガニック野菜の良さはそういったところに表れます」
都会に住む人だけでなく、作り手の個性が感じられるオーガニック野菜を、地域の人にも手に取ってほしい。鈴木さんはまず、亀岡市のカフェの前などで対面販売をスタート。手ごたえをつかむと2014年、「自分の足で集められる範囲の野菜を、自分の足で届けること」をモットーに、移動販売の八百屋「369商店(ミロクショウテン)」をはじめました。
ちなみに屋号の「369」は、弥勒菩薩様からいただいたそう。仏様を彫っていた鈴木さんらしいネーミングです。
地産地消「Organic&Local」は持続可能な消費スタイル
最初は10件ほどから始まったオーガニック野菜の宅配ですが、口コミが広がり、今では飲食店のほか亀岡・南丹市周辺で30軒、京都市内で30軒ほどを回るように。旬のオーガニック野菜6種類がセットになった野菜ボックスのほか、369商店のワゴンにはボックスに入らなかった野菜やお米、有機農家さんの加工品などが並び、追加で購入することができます。ちなみに味噌やしょうゆ、みりんなど欠かせない調味料は鈴木家の食卓で定番化するかしないかが判断基準なのだとか。
オーガニック野菜を仕入れる農家さんは、食材そのものの良さはもちろん、できるだけ関係性を深めて付き合っていきたいからこそ人柄や鈴木さんとの相性も大切にしているそう。
「冬にひとつの品種に絞って作るとか、農家さんのポリシーや働き方も大切にしながら仕入れます。農家さんが収穫した分は、できるだけ買い取りたいと言う想いがあるので、野菜がたくさん出荷される時期などは発注の調整にいつも悩みます」
「369商店は身近な農家さんとお客さんが笑顔になって、自分の家族が食べていければいいという、小さな経済を回すことを目指していた」という鈴木さん。ですが地域で生産したオーガニック野菜を地域で消費する―「Organic&Local」なスタイルは、長期的に見ても持続可能な消費スタイルなのです。
「農薬を使わない有機栽培が環境によいのはもちろんですが、遠くに運べばそれだけ燃料を消費し、排気ガスを排出して環境に負荷をかけてしまいます。ムダな大移動をさせずに、手に届く距離のものを買う。それが本来の、自然なかたちだと思うんです」
京都の農家と八百屋をつなぐKOA便
現在、鈴木さんがもう一つ力を入れているのが「京都オーガニックアクション」の活動です。京都縦貫自動車道に沿った各地域に集荷ステーションを設け、京都府のオーガニック野菜を集めて市内の八百屋さんに配送する共同物流便、通称「KOA便」を走らせています。
「京都市内には、農家さんと直接つながってこだわりの野菜を仕入れる八百屋さんがたくさんあるんです。オーガニック野菜は中央卸売市場に出ませんからね。だけど個々それぞれで集荷・仕入れをするのは大変だから、共同でやれるようにしようと。農家さんから直接集荷して直接届ける369商店がやっていることを、もう少し大きい仕組みとしてできないかと思ってのことです。」
きっかけは2017年。それぞれ個性や熱意あふれる農家さんどうしや、八百屋さんどうしにあまり交流がないことに気づいた鈴木さんは、つながりを持つ場があればいいと「百姓一喜」というイベントを企画します。30人ほど集まれば…と考えていたそうですが、ふたを開けてみれば農家、八百屋、料理人が総勢70人。翌年には100人を超える人が集まり、活気にあふれる会になりました。
「それを見て、みんなこんなに同じ立場の人と話したかったんだ、繋がりに飢えていたんだと気づきました。これだけの共通意識があれば何かできる。そこでオーガニック野菜の共同便をはじめました」
共同便の初年度は八百屋4軒、農家10軒で、手づくり発注書を回しながらのスタート。もともと知り合いどうしで、信頼関係があったからこそのミニマムなスタートだったとか。2年目に協議会化すると、共同の産地訪問や八百屋の経営マネジメント研修や栽培、農業のIT化といったワークショップなどを開催。総合地球環境学研究所で「食と農」のあり方を研究する研究者なども加わり、海外の事例など広く情報を知ることができるようにもなりました。
「個人事業の369商店としては、やれることの限界がある程度見えてきた」という鈴木さんですが、今後は持続可能な「Organic&Local」の地産地消スタイルがもっと広がってほしいと考えています。消費者にも取り組みや考え方をもっと知ってほしい、共感したら買ってほしい。京都オーガニックアクショの活動も、発信に力を入れていきたいと考えているそうです。また、KOA便のようなしくみは他県でもほとんどなく、オーガニックを扱う大阪や兵庫の八百屋さんや生産者さんたちが興味を示しているところなのだとか。今後共同便のしくみが他府県にも広がり、それぞれの地域でオーガニック野菜がもっと食卓にのぼる日が来るかもしれません。
京都に住んで、京都で育った野菜を食べる。369商店は、そんな当たり前みたいなくらしがいちばんなのだと再認識させてくれる八百屋さんです。