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色鮮やかな抹茶スイーツ「茶和らび」〜京都・綾部の中丹茶を使ったわらび餅〜

【綾部市】
色鮮やかな抹茶スイーツ「茶和らび」〜京都・綾部の中丹茶を使ったわらび餅〜

和菓子職人であり茶農家でもあるご主人が作る絶品わらび餅

山間に広がるのどかな風景と茶畑が続く綾部市。
由良川の流れがもたらす自然の恵みが最高品質のお茶や小豆を育みます。
12年前にこの地へ移住し、和菓子職人から茶農家となった橋本登美雄さん。
考案されたわらび餅の噂を聞きつけ、菓子工房にお邪魔しました。

ドアを開けると、ちょうど本わらび粉をこねていらっしゃる真っ最中。出来立ての「茶和らび」とおいしいお茶をごちそうになりながら、中丹茶のことや移住に至るまでの経緯、綾部市の豊かな食材についてお話をお聞きしました。

『京の食6次産業化コンテスト』準グランプリを受賞した「茶和らび」

「まあ、一服どうぞ」。着いて早々、供されたのは2018年度『京の食6次産業化コンテスト』において準グランプリを受賞、さらに『中丹いち推し商品』の各賞に選ばれた「茶和らび」。
橋本さんが営む「わぎファーム」で収穫した一番茶抹茶のみを使い、貴重な本わらび粉を贅沢に使ったわらび餅です。

鮮やかな緑をまとったわらび餅は驚くほどふわふわ、モチモチでとても柔らかい。中に入っている抹茶クリームに気づかないほど口溶けがよくて、とろけていく一体感に感動しました。
茶色の方は、ほうじ茶バージョンで新商品とのこと。香ばしさが口中に広がり、抹茶とはまた異なる趣きがあります。こちらにも餅の中にほうじ茶クリームが入っていて、どちらも新鮮な味で、とてもおいしかったです。

「茶和らび」には、ご自身で栽培した一番茶に20日間以上覆いをかけてカテキンを抑えて、旨み成分であるテアニンをしっかり含ませたお茶を抹茶にして使われています。ほうじ茶パウダーは、同業のご友人が作られているお茶を使用しているそうです。

そもそも「茶和らび」を考案したのは、市場では「宇治茶」として出回りますが、あまり知られていない、森の京都エリアである綾部で栽培されている質の高い中丹茶の良さを広めたいと思ってのこと。ご実家は京都市内にある有名な和菓子店。そちらでわらび餅を作っていた経験から、「店で作るわらび餅の中は餡子だけど、生クリームに変えてみたらどうなるだろう…」など試行錯誤を繰り返したそうです。

「ただ単にそんな発想で思いついただけですから…」とご謙遜されますが、粉の配合の調整や餅に合うクリーム、鮮やかな抹茶パウダーづくりなど、そこには創意工夫があり、単なる“思いつき”だけでは実現できないことは容易に想像できます。

10年以上にわたり産地賞を受賞する、高い品質の「中丹茶」

先ほど少し触れた中丹茶ですが、残念ながら一般的にあまり知られていないようです。
綾部市は長くお茶の産地であり、「綾部茶」「中丹茶」「両丹茶」と呼ばれていますが、流通の過程で「宇治茶」となります。そのため、その名を耳にする機会がほとんど与えられていないからでしょうか。ですが、宇治茶づくりが盛んなお茶の京都エリアとは異なる独自の発展を遂げてきました。

「中丹茶」の大きな特徴は、高品質な一番茶に特化したお茶づくりが行われていることです。産地の規模は小さいものの、全国茶品評会の「かぶせ茶((玉露と煎茶の中間に位置するお茶)の部」で、綾部市・福知山市・舞鶴市において10年以上にわたり産地賞を受賞するなど高く評価されています。

ですが、レベルが高い品質を保持しているのにもかかわらず、知名度が低いのが現状です。それを打破するために、中丹地域では中丹茶の認知度を向上させるためのプロジェクトが立ち上げられました。先ほどご紹介した橋本さん考案のお茶を使ったスイーツ「茶和らび」もその一環です。

子育ても考え、移住サポートが手厚い綾部に移住

地域活性化に取り組む橋本さんですが、生まれ育ったのは京都市。今から12年前の2009年、家業である和菓子店はお兄様にお任せして、奥さんとお子さん3人と共に綾部市に移住してこられました。

最初から農業をしたいと思って移って来られたのではなく、子育てのためにも自然豊かな場所に住みたいと考えてのこと。ネット検索で目にとまったのが綾部市だったとか。町ぐるみで取り組んでいる移住サポートが手厚いことと、見学で訪れたときの担当者がとても親切だったことが移り住む決め手になったそうです。

これまでの積み重ねすべてが農業につながっている

和菓子職人から茶農家への転身はかなり思い切った印象を受けますが、これまで歩んでこられた経歴を考えれば、農業とは無縁ではなく「すべてがつながっている」ことが伺えます。

橋本さんの学歴は優秀であると同時に少々ユニークといえます。中学校卒業後は京都から遥か遠く離れた北海道の高校で酪農を学びました。生まれ育った京都市内とは全く異なる広大な土地が広がる北海道。もっと違う広い世界を見たくなり、大学は日本を脱出してアメリカのアイオワ州立大学の農学部に入学。
大学では農耕学を専攻され、主に雑草について探求されたそうです。
例えば、ゴルフ場やサッカー場では必ず芝生を目にしますが、維持するために管理され手入れが施されています。その天敵となるのが雑草というわけです。美しい芝生を保つには、敵となる雑草の構造やシステムを知り、どのようにコントロールすべきかなど研究を重ねる必要が出でくるのです。大学で5年間学業に励まれた後、日本に戻りゴルフ場の芝生関連会社に就職されました。

「大学で生物学的な植物の生育のサイクルやメカニズムなどを詳しく勉強したことは、今の仕事である植物を育てていく上で役に立っていると思います。また、肥料や農薬のことなども大学で学んできましたが、そんな机上の理論、教科書的なことが、実際の農業で無駄かといえば、そうではありません。やはり役に立っています」と率直な気持ちが伺えました。

また、これまで携わってこられた仕事については「芝生管理はほぼ農業です。収穫をしないだけで、やっていることは同じです。和菓子作りも作り出すという意味では一緒ですかね…」とも。

自然が相手の農業

現在は、お茶を主軸に水稲や小豆栽培もされています。
自然相手なので天候に左右されることは当たり前のこと。それは苦労とは思わないそうですが、大雨による洪水が悩みの種だそう。幸い茶畑は山の方にあるので、それほど被害を多く被ることはありませんが、それでも5年ほど前の10月にやってきた台風のときはかなりのダメージを受けたそうです。

収穫は5月なので茶葉自体の被害はありませんが、茶園を囲む棚(※1)が壊れてしまいました。お茶の木は強いので折れたりはしませんでしたが、茶木に流れてきた泥や木々などが押し寄せ、取り除く作業の後始末に労力がかかったそうです。
※1 春先に茶園全体を覆い掛けして遮光するための骨組のこと


食の豊かさは人生を豊かにする

移住して改めて感じるのは、この地の食材の豊かさだと橋本さんは言います。
「山に自生しているマッタケ、イノシシやシカの肉をおいしく食べられる環境があり、また、売り物にならない成長しすぎたタケノコであっても、湯がいて食してみると本当においしい。高級弁当の中にあるタケノコよりも、こちらで食すほうが格別に“うまい”ですよ。なぜ、そんなに地元の食材がおいしいのか、鮮度の違いなのかはっきりとわかりませんが…」と。

さらに自園で収穫したお米、ご近所でいただくお野菜も旨みが詰まっていて甘く、綾部は食材の宝庫だといいます。
「食べ物が豊かだと人生も豊かになりますよ」。橋本さんの言葉に強くうなずきました。


現在、農業を行いながら、自家製のお茶、小豆を使った和菓子づくりもされています。
和菓子職人だった経験を活かし、丹波大納言を薪で丁寧に炊き上げこだわりの粒餡に仕上げ、最高級の綾部産の抹茶をふんだんに使ったスイーツを創意されています。
「自ら育てた食材を使って作り上げるお菓子」を今後も手がけていきたいといいます。そのために畑では質のよい食材を作れるよう日々、試行錯誤を繰り返しているそうです。
そして、有名ブランドである宇治茶の名に恥じぬよう、また、高い質を誇る中丹茶を栽培する責任の重さも感じながら、日々尽力されています。

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