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エンジニアから養豚の世界へ…京都「日吉ファーム」を受け継ぐ2代目の挑戦

【南丹市】
エンジニアから養豚の世界へ…京都「日吉ファーム」を受け継ぐ2代目の挑戦

西日本最大級の養豚場でブランド肉「京丹波高原豚」を育成

京都市の北に位置し、松茸や栗で有名な丹波地方・南丹市。自然豊かなこの地に、西日本最大級の養豚場「日吉ファーム」があります。
西日本豚枝肉コンクールで最高位の名誉賞を2年連続で受賞しているほか、全日本枝肉コンクールでも優秀賞を受賞するなど数々の輝かしい受賞歴を誇る同社には、初代の想いを受け継ぎ、次の時代を担うべく奮闘する2代目の姿がありました。「豚はかわいいですよ」と目を細めて微笑む、藤堂祐士さんに養豚への思いを伺いました。


写真:日吉ファーム 専務取締役 藤堂祐士さん

結婚を機に養豚の世界へ

緑豊かな京都府の丹波地方。その南部に位置する南丹市の、山の中腹に構える日吉ファームは西日本最大級の養豚場です。

繁殖農場と子豚を育てる肥育農場からなる合計11棟の豚舎では、交配、分娩、哺育、育成、肥育と細かくステージを分けて、約9000頭の豚を飼養・管理しています。それぞれの部門に専門の担当者を配置してきめ細やかに対応し、同社のブランド肉「京丹波高原豚」のロースやしゃぶしゃぶ用など、精肉店向けに肉を出荷しています。

この養豚場で、社長の代を継ぐべく奮闘中の男性が、現在、専務取締役を務める藤堂祐士さんです。
福岡県出身の藤堂さんは、10年以上にわたり京都の大手企業のシステムエンジニアとして活躍。長らく海外のクライアント企業を担当し、2夜、3夜連続勤務といったハードな業務にあたっていたそうです。

のちに日吉ファームの現社長・北側勉さんの長女と結婚。当初は養豚業に関わるつもりはなかったものの、義父の北側さんが後継者を探していたことから「養豚業をやってみないか」との誘いをきっかけに身を転じることになりました。

コンピューターシステムに囲まれる職場環境から一転、自然あふれる環境の中での養豚業への転職です。デジタルの世界から生き物を扱う世界への転身は、あまりにも違いすぎる環境の変化でカルチャーショックを受けたのでは、と聞いてみました。すると「(システムエンジニアと養豚は)意外と似ているものですよ」との答えが。

その理由を尋ねると「システムエンジニア時代は、海外の顧客の営業時間に合わせて対応していたので週末関係なく働いていました。休みがないという意味では養豚も同じ。動物が相手ですから、人間の都合で休むわけにはいきません」。

また、パソコンの前に座り続けていた前職に比べれば、体を動かせる現職のほうが健康的。「もともと体を動かすことが嫌いではないので」とも。前向きな藤堂さんは、社長であり義父の北側さんのもとで、後継者として日々養豚業に専念しています。

毎日のルーティンワークが品質の良さにつながる

養豚業を続ける中で、日々大切にしていることは「毎日のルーティンワーク」と言います。決められたことを欠かさず行うことが豚の品質に繋がるのだそうです。「畜産は手を抜けば抜いた分だけ品質が悪くなるんです。ですからルーティンだからと言って適当にはできません。この仕事をやっている人間なら、品質の善し悪しの変化はすぐに分かりますよ」。

また、豚にもそれぞれ個性があり「同じ作業をしていても、豚それぞれで感じていることが違うんです」とも。

まるで人間と対話しているみたいですね、と話すと「よほど豚のほうが感情表現が豊かですよ。今何を感じているか素直に表してくれるので、とても分かりやすい動物なんです」と楽しそうに語ってくれました。

生き物相手だからこその苦労とやりがい

日吉ファームの理想とする豚肉は、ほどよくサシが入った、鮮やかなピンク色で、柔らかい食感の中に甘みを感じる肉です。この質に近づけるには、血統とエサ、飼育環境が大きく関わっていると言います。


写真提供:日吉ファーム

同社の豚は、3種の親豚を厳選し、かけあわせた三元豚です。この血統に備わった性質を、エサと飼育環境でいかにブラッシュアップしていくか。その中でも、極力ストレスをかけない飼育に特にこだわっています。

「エサを切らさないように注意してチェックしていますし、寝床はいつも清潔な状態にしています。人間と同じですが、居心地のよいすみかでストレスを感じることはないですよね。私たちは豚がどうやったら気持ちよく過ごせるかに注力しています」。
豚は汗腺が発達していないので、人間のように汗をかいて体温を下げるという仕組みがありません。そのため、特に夏冬の気温に注意しながら、飼育スタッフが温度管理に気を使っているとのこと。

なお、飼料はメーカーと共同で設計したオリジナル。自社製のパンも配合し、甘みや柔らかい食感を追求しています。

ストレスのかかった豚は血液の巡りが悪く、食肉加工すると肉の色が濃くなってしまうために「見た目ですぐに分かる」と藤堂さんは解説します。

「例えば過密状態で飼育したり、温度の管理を怠ったり、寝床が汚れたままだったりすると豚は気持ちよく過ごせないですよね。そのストレスが肉質にダイレクトに影響するので、美味しい肉にならないんです」。

また、畜産ならではの悩みもあると言います。「豚は産業動物ですから、彼らの生死が経営に大きく関わっています。時々ニュースにもなりますが、豚の伝染病がひとたびはやると商品にできません。ですから私たち従業員はもちろん、当社へお越しいただく方にも、豚舎へ病原菌が入らないように消毒を徹底いただくなどお願いしています」。

丈夫で長生きする豚もいれば、生まれつき体が弱いために育たない場合もあり、「生き物ですから個体差があって当たり前。でも私たちにできることもあります。例えば大きい子豚が生まれるように、母豚に与えるエサを調整しています」といった、生き物を相手にする苦労とともに、やりがいも感じている、とも語ってくれました。

次の目標は経営の多角化と肉の研究

徐々に社長から任せてもらえる仕事が増え、将来の目標を意識し始めた藤堂さんは「今後は、食肉加工なども扱う経営の多角化をめざしたい」と決意をにじませていました。とは言え、目下の目標は社長から継承する養豚業を極めること。「もっと美味しい豚肉を消費者の皆さんへお届けするために、肉の研究もしたい」と夢は広がります。

現在は、京丹後市の道の駅・丹後王国「食のみやこ」のレストラン「トン‘sキッチン」で日吉ファームのブランド肉「京丹波高原豚」を提供しています。
最後に、おすすめの食べ方を教えてくれました。「シンプルに塩コショウで味付けすると、肉の味わいが際立っておいしいですよ」。

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