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天橋立のお膝元でイタリアンディナー 老舗お酢屋さん×地元食材の“ここでしか味わえない”一皿
【宮津市】丹後・宮津の食材とお酢を使った唯一無二のイタリア料理店「aceto」
丹後半島の北部、日本海の若狭湾に面し、日本三景の天橋立で知られている宮津。
こちらに、128年続くお酢屋さんが地元の活性化のために開いたイタリアンレストラン「aceto」があります。イタリア語で「酢」を意味する屋号のとおり店の礎となるテーマはお酢。
厨房に立つのは、シチリア料理の第一人者である重康彦シェフ。宮津・丹後の醸造酢と食材を使い、重シェフの世界観が広がる料理を供します。
この土地でしか味わえないイタリアンに挑戦するシェフの熱い思いをお聞きしました。
富士酢で有名な老舗「飯尾醸造」がつくったイタリアンレストラン
「aceto」を運営するのは、1893(明治26)年創業の飯尾醸造。富士酢でお馴染みのこちらは今も昔ながらの製法で様々な酢を大切に醸造しています。数多くある酢のメーカーでも自社で酒造りから、さらに無農薬の米作りからスタートし約1年以上も掛けて酢を造るところは、かなり稀といえます。
飯尾醸造5代目当主・飯尾彰浩社長が、海の幸や山の幸が豊富な丹後・宮津の食材をふんだんに使い、食で地域を盛り上げていこうとレストランを開業しました。
築120年の商家をリノベーションし、元々あった床の間や欄間、襖や障子などはそのまま活かしてお洒落な空間に仕上げました。提供する料理は漁港が目と鼻の先にある立地を活かし、新鮮な魚介類を使ったイタリアン。
店の要となる料理人は飯尾社長の中ですでに決まっていました。その人物は東京で伝統的なシチリア料理の担い手として活躍していた重康彦シェフ。飯尾社長は、重さんが独立開業した「アルキメーデ」のシチリア料理の大ファンであり、その腕を買っていたからです。
料理に遊び心と情熱を注ぐ重康彦シェフ
2017年にオープンした「aceto」のシェフとなった重さんの原点はイタリアのシチリアにあります。東京のイタリアンで5年間修業した後、25歳で海を渡りました。のんびりとしたシチリアのレストランで一番印象に残っているのは、おじいちゃんシェフが作るマグロのソテー 赤ピーマンのソースでした。
「マグロのステーキにトロっとしたソースが絶妙なんです。へー、イワシのパスタもあるんだ…、ってな感じで素朴な料理に驚き感動しましたね」
最初は無給でしたが、最後はイタリア人と同額をもらうまでになっていました。3年間で十分な技術と経験を身につけ28歳で帰国。すぐに東京のイタリアンレストランで9年間シェフを任され、その後「アルキメーデ」のオーナーシェフに。東京で20年にわたり腕を振るってきました。
そして、飯尾社長の熱心なオファーに応えて、初めて宮津という地に訪れた重シェフ。京都に海があることも知らなかったとか。そんな未知な土地にやってきたのは、「シチリアのような海のそばでやってみるのもおもしろそう。これまでと違う経験ができ、誰もやったことがないこと。きっとこれからも誰もやらないことをやるのも楽しそう」と思ったから。
ですが、順調な滑り出しとはいかなかったようです。開店当初はお酢を使いつつシチリアっぽい料理を出していましたが、すぐに「何かちがう」と感じたといいます。それから試行錯誤の日々が始まりました。一年間、模索した結果、「宮津・丹後の豊かな食材を用いてイタリア料理人である僕のフィルターを通した料理を作ってみよう」という考えに行きつきました。
料理には富士酢だけでなく、醸造で生まれる酒粕や米ぬかも利用することができます。「それなら発酵という手法も取り入れられるのでは…」。そう思い至ると今までとは違った視点を持つことができたといいます。それまでオリーブオイルを多用してきましたが、この料理には無しでいけそう、チーズではなく違うもので代用できるのではないか、という具合に重シェフの独特なイタリアンの世界観が広がっていきました。
リゾットは一般的に米とバター、チーズで作りますが、重シェフは米と魚のダシ、米ぬかでとろみをつけます。こうすることで油分控えめでヘルシーな一皿が完成します。
ほかにも衛生管理された海水を購入し調味料としても使用。海水とレモンバーベナを合わせた「海水のハーブ水」を作り、おろした魚に塩の代わりにふりかけてカルパッチョにしたり、ジビエのイノシシ肉を柔らかくするために酒粕でマリネに、米ぬかで漬けた野菜をグリルして前菜の添え野菜にしたり…と枠にとらわれない発想で美味を生み出していきます。
「海水を調味料にするなんて、都会では思いつかないし、物理的にもむずかしい。酢の醸造の過程でできる副産物を取り入れることで、オリーブオイルやバターをたくさん使わなくても素材の味を引き立てる料理ができ上がるんですよ」。
上質な食材を余さず使い、ここでしか味わえない料理を
「ありがたいことに本当に良い食材を使わせてもらっているので、棄てるとこなく使い切っています」とオーナーである飯尾社長に感謝の言葉を口にする重シェフ。
新鮮なイカが手に入ると内臓と香味野菜をソテーしソースにします。ほんのり残るえぐみも含めてこれが丹後の味だそうです。魚のアラもすべて捨てずに取っておきブロードやスープ、リゾットに。「魚のアラをゆっくり煮詰める。酢を煮詰めてソースにする」。そんな凝縮する調理法も重シェフの料理の特徴といえます。
ほかにも棄てられる食材に工夫を凝らします。久美浜にある牧場に出向き、チーズの製造時に出る廃棄されることが多い液体「ホエー(乳清)」を分けてもらい、タコを茹でるときに柔らかく仕上げるために使います。茹汁は紅芋酢と煮詰めて、タコの旨みが詰まったソースに(写真/8250円のコース・前菜)。
栄養価の高いホエーはリコッタチーズを作るときの材料にもなり、またパスタやパン作りにも使い、乾燥させてパウダーにしたり、発想次第でいろいろと使うことができるとか。
「ここは新鮮な魚介類はもちろん、米、野菜、肉だって上質なジビエがあります。この地で手に入るものを使って、それにアイディアを盛り込んで、都会では食べられないこの土地に足を運ばなければ口にできないイタリア料理をめざしています」。
宮津・丹後をわざわざ足を運ぶ美食の町にしたい
実のところ、飯尾社長には壮大で素敵な夢があります。
宮津・丹後という地区に個性的なレストランができ、遠方からでも美食を求めて観光客が訪れる場所になってほしいと。そして「いつか宮津・丹後を日本のサンセバスティアンにしたい」と。そんな飯尾社長の思いに心ひかれたという重シェフ。
サンセバスティアンとは、スペイン北部にあるビーチリゾート。小さな地域に20軒以上のミシュランガイド星付きレストランが連なる美食の町として知られています。「サンセバスティアンのように宮津・丹後をもっとわくわくする街に、多くの人が集まってくる街に変えたい」。そんな大きな目標が重シェフを奮い立たせます。
宮津・丹後は海をはじめ山、川、森とのどかな風景が目にできます。「特別際立ったとこもないし、何もないといえばそのとおりなんですが、街中から来た人間にとってそれがとても新鮮。そんな美しい景色に加えて料理で貢献できることが、僕がこちらに来た意味であり、使命かなと思うワケです」。
宮津・丹後で育まれた農産物、漁港で捕れる魚介類といった食の宝庫が身近にあることが、どれだけ素晴らしく恵まれているかを東京で生まれ育った人間だからこそ実感できると。これからも地元産を駆使して、どのようなイタリア料理を作り上げていくのか、シェフの挑戦は続きます。
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