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夏が旬!久美浜湾の養殖岩牡蠣で京丹後地域を盛り上げる

【京丹後市】
夏が旬!久美浜湾の養殖岩牡蠣で京丹後地域を盛り上げる

牡蠣の旬といえば冬のイメージがありますが、それは「真牡蠣」のこと。夏でもおいしく味わえる「岩牡蠣」という牡蠣をご存知ですか?
京都府の北西部、丹後半島の西に位置する京丹後市の久美浜湾。古くから真牡蠣の養殖が行われてきたこの地に、地域の未来を見据え、岩牡蠣の養殖に着手した漁師さんがいます。その方のお名前は浜上誠(はまがみまこと)さん。
彼が育てた岩牡蠣が今年初めて飲食店で出されるとのことで、お話を伺ってきました。
今が旬の岩牡蠣とともに、久美浜湾の景色も味わってみませんか。

地域ぐるみで運営する観光拠点「風蘭の館」


京都丹後鉄道の「久美浜」駅から約15分。昭和の面影を残す町並みや、久美浜湾の穏やかな景色を楽しみながら車を走らせると、目的地となるレトロな木造の建物が見えてきます。ここは、浜上さんがオーナーを務める宿泊施設兼食事処「風蘭の館」。ビールのCMで有名になったツリーハウスの管理やシーカヤック体験の実施なども行う、地域の観光拠点です。



実はこの建物、廃校になった小学校を改装したもの。当初は行政の事業として有効活用が始まりましたが、現在は浜上さんも運営に携わる蒲井・旭活性化協議会が地域ぐるみで運営しています。「最初は蕎麦が中心の食事処でしたが、私が管理を任されることになり、『飲食素人の自分がするなら、得意ジャンルでやるしかない』と、牡蠣小屋を始めました」と浜上さん。食事処には、漁師さんが運営するお店らしく、たくさんの大漁旗がかかっています。

岩牡蠣の養殖を始めたきっかけと挑戦の道のり


「真牡蠣は夏に産卵するため、栄養を蓄える冬から春にかけて旬を迎えます。特に産卵直前の春の真牡蠣は味が濃厚になりますが、夏以降は『水牡蠣』といって味が落ちてしまう。そのオフシーズンをどうにかしたいと、3年前から岩牡蠣の養殖に挑戦することにしたんです」と、浜上さん。岩牡蠣は真牡蠣のようにいっせいに産卵せず、長い期間に徐々に産卵するため、夏でもおいしく味わえるのだといいます。


ただこの岩牡蠣、育てるとなればなかなかの曲者。真牡蠣が1年で出荷できるサイズまで成長するのに対し、岩牡蠣は出荷までに最低3年の年月がかかるのです。その間、3度の台風シーズンを乗り越えなければならず、ゆっくり育つ分、牡蠣同士が岩のようにくっついてしまうのでバラすのも一苦労。また、育った岩牡蠣は真牡蠣より重量があり、従来の竹で組んだ養殖筏では強度が足りないため、特別な樹脂のパイプなどで筏を組むのですが、竹の筏と比べると5倍ものコストがかかるそうです。


そのため、岩牡蠣の養殖はハードルが高く、市場に出回っているほとんどが天然物。全国的にも取り組んでいるところは少なく、京都でも舞鶴湾・栗田湾・久美浜湾など一部でしか養殖されていません。「地元の養殖漁師仲間に相談して、そういった苦労があると聞いていたので事前に対策は打てましたし、漁協がマニュアルを作成してくれていたので助かりました。今も手探りの状態で進めています」と浜上さん。たまたま今回がうまくいっただけで、これから予想外の困難を経験するかもしれないと話します。

さまざまな料理で岩牡蠣を味わえる「岩牡蠣SET

風蘭の館では、そんな浜上さんが育て、今年初出荷を迎えた岩牡蠣をいただくことができます。おすすめは「岩牡蠣SET」(3300円)。岩牡蠣の蒸し焼き1kgと生牡蠣一つに、「水揚げの際にどうしてもとれる」小ぶりの牡蠣がこれでもかと入った牡蠣ご飯、ジューシーな旨みがあふれる牡蠣フライ3個がついたお得なセットです。


蓋を開けると湯気とともに磯の香りがふわりと立ち上る蒸し牡蠣に、サイズが大きく見るからにプリプリの生牡蠣。いただいてみると、「海のチーズ」と呼ばれるだけあって濃厚ですが、今まで食べてきた岩牡蠣より磯臭さ・塩味がマイルドで、爽やかな余韻が残る気が……

久美浜湾の牡蠣に隠されたおいしさの秘密


そのおいしさの秘密は、久美浜湾の環境にあるようです。小天橋と呼ばれる砂州によって日本海と隔てられた久美浜湾は、その閉鎖性から波が比較的穏やかな上、多くの栄養を含んだ山からの水と海水が混じり合う「汽水域」で、プランクトンが豊富。「海水で育つ牡蠣にとっては『エサが豊富だけど、厳しい環境』といえますが、厳しい環境だからこそ、栄養を蓄えておいしく育つんです」と浜上さん。養殖漁師さんたちは、水温や酸素濃度などを考えて水深調整を行い、牡蠣が厳しい環境でも生きていけるよう、手助けをしているそうです。

牡蠣で地域が抱える問題を解決したい

そんな浜上さんの出身地は、実は隣の豊岡市。海好きだったお父さんが船の近くに住みたいと久美浜町蒲井地区への移住を決め、当時20代前半だった浜上さんも一緒に移住してきたのだそうです。最初は、趣味で釣りをする程度だった浜上一家ですが、どうせならと漁業権を取り、家庭菜園のノリで牡蠣養殖を開始。それからしばらく遊漁船の営業をしていましたが、浜上さん曰く「私は実は人前に出るのが苦手。細々と自分たちのためにやっていた牡蠣養殖の方が性に合っていると思い、15年ほど前から本格的にそっちに取り組むことにしたんです」。


そして牡蠣養殖をしている中で、浜上さんは地域が抱える問題も解決したいと考えるようになります。「牡蠣養殖をやっている漁師さんは、民宿を経営していることも多いのですが、『京丹後』というと、観光の方にはどうしても蟹を求められてしまうんです。せっかく地元産の牡蠣という資源があるのに、もったいないですよね」。また、生食用として出荷するために必要な殺菌処理についても、設備がない久美浜では行えず、舞鶴で処理をして「舞鶴産」として出荷される現状があり、その点を変える取り組みも考えていると話します。


これまで浜上さんのお手伝いをしていた22歳の息子さんや、京都市内で料理人の経験を積みUターンで戻ってきた娘婿さんも、昨年から本腰を入れて一緒に牡蠣養殖・風蘭の館の運営に携わってくれることになったと、顔を綻ばす浜上さん。現在、深刻な高齢化にある蒲井・旭地区、そして久美浜の活性化のため、「まずは牡蠣をきっかけに観光の方に来てもらい、地域の良さを知ってもらいたい」と、展望を語ります。

牡蠣と一緒に味わいたい久美浜の景観

そんな久美浜湾の牡蠣は、風景と一緒に味わうのがおすすめです。牡蠣筏が浮かぶ久美浜湾の景色は、「久美浜湾カキの養殖景観」として府の文化的景観にも選定されています。代表的な久美浜湾の絶景スポットはこちらの二つ! 湾をぐるりと一周ドライブしながら、お気に入りの景色を探すのもいいですね。


●久美浜遊覧船


「久美浜」駅から車で約3分の久美浜公園の船乗り場から出発。牡蠣筏の景観だけでなく、天橋立に似ていることから名付けられた「小天橋」、町のシンボル「かぶと山」など、久美浜湾一帯の魅力を船の上から楽しむことができます。久美浜湾を熟知した船長が、久美浜湾の歴史や文化、自然について分かりやすく説明してくれるのも嬉しいポイント。途中、「バーベキューガーデン無人島」にてワンドリンクのサービスもあります。


●かぶと山展望所

かぶと山は兜のような形をした標高191.7mの山。公園として整備されており、登山道やキャンプ場、遊具を備えた芝生広場などがある他、山頂には自然と調和するような展望台が設けられています。ここは日本海と久美浜湾、その間に横たわる小天橋を一望する絶景スポット。展望所までの道のりは、登山道を登って約30分と少し険しいですが、自然が生み出すフォトジェニックな青色のグラデーションを眺めれば、きっと疲れも吹き飛ぶはずです。

紹介情報

  • 風蘭の館
    TEL 0772-83-10330772-83-1033
    instagram
    ウェブサイト
  • バーベキューガーデン無人島
    TEL 0772-82-00450772-82-0045
    instagram
    ウェブサイト
  • かぶと山展望所(京丹後市観光振興課)
    TEL 0772-69-04500772-69-0450
    ウェブサイト

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