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京都発・BIO(ビオ)ワイン &自然派ワインを生産現場から食卓まで

【向日市】
京都発・BIO(ビオ)ワイン &自然派ワインを生産現場から食卓まで

向日市の「ワイン&フード オカダ」のワインは、想いがつまったストーリーそのもの

ブドウを主原料として醸造、世界各国で飲用されるアルコール飲料のワイン。ここ数年は、カラダに優しくて、気軽にスイスイ飲める。そして、クオリティの高さ、農薬を極限まで用いない有機栽培によるブドウを使用したBIO(ビオ)ワインや自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)が人気です。

今日のワインの傾向は、南アフリカやチリといった「ニューワールド」と呼ばれる地域でつくるコストパフォーマンスの高いワインが注目され、人気が高く、安価で購入することができるワインとして、消費者のニーズがあります。

従来からのワイン生産大国であるヨーロッパのワインも負けてはいません。特に、ワインの王道であるフランスにおいて、小さなワイナリーのワインづくりに注目。オカダ(株式会社ユニゾンファブリク)の岡田孝浩(おかだたかひろ)さんは、そんなワイナリーに対して、生産者から食卓に至るまでの正当なコストを支払い、消費者から販売価格として預かったお金を生産者に届けるという「フェアトランザクション」という仕組みを構築中です。その時だけの「おいしさ」だけでなく、来年も再来年も継続しておいしいワインを生産者につくってもらえる環境へ、私たちが楽しく飲めるという持続的な「フェアトランザクション」というシステムを考え、進めています。

日本のワイン市場はもちろん、アルコール飲料に関する流通情報やマーケティングに詳しい岡田さんに、京都から始まるおいしいワイン「楽しくスイスイ飲める」システムについて、お話を聞きました。

キャリアと研究から、お酒市場のマーケティングに詳しくなる

阪急京都線「東向日駅」からすぐのところにある「ワイン&フード オカダ」。1925年に「鹿の子絞り加工業」として創業して約 30年後に、酒類販売小売業として和洋酒・食料品の「オカダ」を開業(1956)し今に至ります。4代目となる岡田さんは、2015 年に立命館大学びわこくさつキャンパス(BKC)内に事業拠点となるオフィスを開設。大学発ベンチャーとして、次世代の酒類販売システムの構築(ワインの輸入販売も含む)事業と飲用シーンを楽しくする関連製品の開発事業をスタートしました。翌年には「W&FO Alliance」の名称を掲げて「ワイン&フード オカダ」事業をグループ化し、研究開発型ベンチャー事業として株式会社ユニゾンファブリクを設立しました。岡田さんが、大学院時代に設立した会社であることから経済産業省「大学発ベンチャー」にも認定されています。

 

岡田さんは、大学を卒業後、会社員として、チェーンストア本部、ビール・洋酒メーカー、伏見の日本酒メーカー、そしてダイレクト・マーケティング会社など、マーケティング部門に在籍し、活躍していました。



また、会社員と両立しながら、立命館大学院で経営学修士を取得。働きながら酒類市場の課題を発見・探究すべく、後期博士課程に進学し自身の研究テーマ「次世代の酒類市場マーケティング」の研究を開始。会社員を退職した、2009 年から 2014 年までは、難病になった母のため「これまで迷惑をかけた贖罪として、母親の介護に集中して取り組みました。急に介護となり、当初は何も解らずとても大変でした。しかし、この介護期間の年間、大学院にて自身の研究を進めていたことが、現在の実務と理論の融合という仕事の方向性に繋がっています」と、岡田さん。お酒に関する実務と酒類飲用市場の研究をしてきたことで、日本のワイン飲用市場の課題に関して、さまざまな視点から見ることができているといいます。

実際に欧州へ足を運んで得た、ワインのさまざまな知識

岡田さんは、実務者や研究者としての調査のためにフランスなど欧州各国へ何度も旅をしています。その中で、自然派ワインが曖昧な定義であることに注目。「自然派ワインの生産者はそれぞれ感性が違うこと。想いとセンスで醸造をして、個性豊かなテイストのワインを創出されている。BIO ワインの基準に満たしているとしても、規定には縛られず独自の感性を貫くために自然派ワインをつくる生産者も多くあります。」


岡田さんが販売しているBIOワイン・自然派ワインは、公式ホームページから購入できます。どれも必ずワイナリーの紹介があります。例えば、フランスの『ドメーヌ・サンヴィクトラン』。除草剤(農薬類)を一度も使用されたことがない土壌でブドウをつくり、ワインの醸造をしているワイナリー。繊細で飲みやすい赤・ロゼ・白のワインは、プロヴァンス地方の一流のレストラン(2つ星)のリストにその名を連ねているほどです。


また、フランス最小の組合といわれている『エステザルグ農業協同組合』。加盟している生産者数は 数社足らずで、大量生産のがぶ飲みワインとは全く違う繊細さがあるといいます。コートローヌ河南部の街アヴィニョンのシニャルグ地区に位置している、複雑な地層や多様な品種のぶどうを使ってコクとボリューム感に富んだワインです。店舗と公式ホームページを連動させて紹介されています。


こういったワイナリーなどをできるだけ 1 軒ずつ訪ねて、生産者から話を聞いて直輸入をしている岡田さん。生産者との間に発生する価格の考え方が「買う」のではなく、生産者の気持ちやこだわりも「届ける」という、未来に続くおいしいワインへの想いが表れています。


「生産現場から食卓のコミュニケーションシーンまで、そこに掛かる正当な金額でお客様に買っていただく、つまりそのお金を私たちがお預かりするようなもの。そして、生産者に届けることで、次の「おいしい」の実現を目指すという考え方です。一般的に発展途上国の取引ではフェアトレードという言葉が用いられますが、私たちは、「フェアトランザクション」という言葉を用いています。直訳すると「公平な取引」です。生産者から食卓までの正当なコストを生産者に支払うことで「次回のおいしい」を創造することが、持続可能な SDGs に繋がることだと思っています」と、岡田さんは話します。

持続可能なお酒づくりのために仕組みやシステムを変えていく

大量生産ができない、量が少ないから日本に輸入しても流通はなかなか難しいという、おいしい自然派ワインをつくるワイナリーがあります。それは、土壌(テロワール)からつくり上げていく素晴らしいワインです。


そういった問題を解決するためには、ワイン生産者へコミュニケーションをとり直接取引をして、生産者の醸造環境や正当なコストを満たし、自然環境にも配慮した持続可能(サスティナブル)な仕組みを作っていくことが重要だと考えられています。


岡田さんは「フェアトランザクションのことはもちろん、ICT(情報通信技術)を用いて新しい酒類流通システムの仕組みを再構築していきたいと思っています。例えば、アナログの良いところをデジタル化していきましょうと。購入いただいたお客様の飲用や購買データを基に、お客様の嗜好性を丁寧に統計的に分析して、ブレのない製品をお客様に提案ができるようにするとか。という製品を購入されて、同じような製品が欲しいと言われた時に、嗜好性にあった製品をすぐに提案ができる、そんなシステムがあればいいですよね。そして、お酒はコミュニケーションツールです。その飲用シーンにあった製品を提案できたらいいですね。実母の介護で会社員を退職した経験のある岡田さんは、「データの入力や分析などは、在宅でもできますから、介護や育児で勤務できない環境の方にも、雇用を創出できたらいいな」と、これからの酒類市場における新しい価値や、新しい飲用シーンの世界観の創出を見据えたプラットフォーム構築事業の開発を進めています。

育ててもらった向日市への恩返し。ワインだけでなく乙訓の地酒も

立命館大学のキャンパス内に産学官連携の拠点として、研究開発型の大学発ベンチャー事業会社を設置後、現在は、開発拠点を京都府精華町「けいはんなプラザ」へ移転。もちろん、向日市の「ワイン&フード オカダ」は、そのまま。「当店を支えてくださった地元のお客様への恩返し、新たなお酒のあるシーンの創造を考えて役立てることを考えています」と岡田さんは話します。ワインだけでなく、量り売りの焼酎や、珍しいクラフトビール。また、オリジナルの純米酒「京都西山・向日葵」は、乙訓の魅力を詰め込んだような日本酒。京都オリジナル酵母「京の恋」と、向日市で復活した酒米の旭を 100%使用した日本酒「物集女(MOZUME)」も向日市ならではの地酒。魅力ある商品を品揃えされています。


ブドウの成長サイクルが年々早くなったり、ワインの生産範囲が広がるなど、少なからず地球温暖化の影響を受けている傾向にあるワイン醸造ですが、ワインは、環境や天候、そして、土壌(テロワール)などに大きく左右される農業製品という側面を持ちます。シンプルに100年後も同じおいしいワインが飲めるのかどうかを問うことは、とても大切なことです。消費は生産があってこそ。BIOワイン・自然派ワインのつくり手がいるからこそ、おいしいワインが味わえるということを今一度考えたくなるフェアトランザクション。この考えが京都から発信されて、どんどん浸透していくことができたら、ずっとおいしいワインが飲めそうです。

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