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畑をしながらレストランをするのが理想
鹿肉「丹波もみじ」を楽しむアグリフレンチ
【福知山市】
素材や料理への愛を感じる、地元を大切するシェフ
福知山市内の人気店「昼と夜で違う顔を持つレストラン」といえば『Bistrot q(ビストロキュー)』です。
ランチは、京都ではなかなか見かけない「ハンバーグ60分食べ放題」という予約不可の気軽な洋食店。ディナーは、本格的な「フレンチのおまかせコース」を完全予約制でリーズナブルに味わえるフランス料理店と、カテゴリーが全く違います。
オーナーシェフ塩見晋作(しおみしんさく)さんは、「おいしいことが基本。お客様に望まれて、おいしければ良いんです」と話します。それは、塩見さんが中学生の時に作った料理を両親が「おいしい」と言って、調理師の道に進んだことにもつながりそうです。
塩見さんは、おいしさに必要なのは調理の腕だけでなく素材にもあるといい、できるだけ福知山市内と近郊から取り寄せて地産地消を実践。野菜は、父親の自家農園で採れる旬菜、数年前に手にした地元の鹿肉「丹波もみじ」も使います。料理への思い、お店について聞きました。
ひとつひとつの季節の素材を愛おしく扱い、料理をする時は真剣なまなざしの中に、時折笑みを浮かべて楽しそうな雰囲気。塩見さんが厨房に立つ姿を見ると、料理人が天職なのだろうと思うほど、好きなことを仕事にしているように感じます。
福知山市生まれの塩見さん。調理師学校を経て、大阪のフランス料理店、有名ホテルへ。フレンチシェフを営みながらもお好み焼きがある鉄板焼きの店と、西洋料理系を主軸に幅広くさまざまな経験を積み、地元の福知山市へ戻ったのが26歳の時です。数年間の地元での修業を経て、2012年に『Bistrot q』を立ち上げて独立されました。
親子の絆を感じる自家農園の野菜によるアグリフレンチ
約10年前に開業して以来、地元を基本に近隣でとれる食材を使う料理を召し上がっていただきたいという思いがある塩見さん。中でも野菜と米は、父の育てた採れたてを使い「アグリフレンチ」と呼んでいます。つまり、父の収穫した素材×シェフの調理により提供される、親子の絆が生み出したフランス料理のことです。
もともと、祖父母の代から福知山市内に田畑を持ち野菜づくりをしていたことから、塩見さんの父親が興味を持ち手伝い、定年後は毎日野菜と向き合う日々に。それなら父に作ってもらおうと、珍しい野菜の種子をいろいろ渡しました。最初は、名前も知らない見たことも作ったこともない野菜ばっかりなので、父から嫌がられましたけど(笑)。ネットや本でも調べてくれて、年を重ねるごとにクオリティが高くなって、本当に感謝しています。」と、塩見さん。今では「今年はどんな野菜が欲しいのか?」と、父親から塩見さんに尋ねるようにまでなったと話し、これから先は時間をつくって、自らが野菜を作れるように教わり、畑をしながらお店ができるスタイルを検討していらっしゃいます。
料理の楽しさを思い起こす丹波もみじ
地元の鹿肉との出会いは数年前のことです。『Bistrot q』で提供される、完全予約制のディナーメニュー「丹波もみじのフルコース」は、福知山のおいしい丹波もみじを、地元の人や他県の方にも知っていただきたいと2020年から考え、実際に提供できたのは2021年のことでした。それまでも、料理人として使いたい素材だったジビエ。しかし、福知山市内では決して好まれてきた食材ではなかったそうです。「母と話しても臭みがあるから食べたいとは思わないと言ってましたし。昔は、地元の山々で捕獲された鹿やイノシシの処理方法も悪かったでしょうから、僕らより高齢の世代には、おいしいイメージがなかったんでしょうね。」と話します。
地元の先輩に頼まれた「ジビエハンターと行く!リアル狩猟体験&絶品!ジビエフレンチ堪能ツアー」で、初めて丹波もみじに触れて料理をする機会を得た塩見さん。「そもそもフランス料理では、ジビエってよく使う素材です。例えば、野鳥類もありますし、ヨーロッパでは、内臓とか血抜きもせずにそのまま熟成させて、香りの強い状態に仕上げた肉を使うこともあります。だけど、ここは日本ですから。匂いがキツイのは難しいですし、熟成されたジビエなんて口に合わないでしょ。だからこそ、できるだけ臭みのない素材にすることが大切で、その加工処理をした丹波もみじが良いんです」。
『Bistrot q』で仕入れる鹿は、田畑を荒らして罠などにかかり、仕留められている害獣です。塩見さんは「罠にかかった鹿を、その場で心臓が動いているうちに血抜きし、そこから30分以内には処理場に持って帰り、内臓を全部出してという作業をするらしいんですけど。魚の活ジメも一緒で、血を一気に抜いてその後内臓もすぐに出しちゃったら臭みがほぼない状態に仕上がるんですね。それと同じような処理をしている鹿肉なので、非常に肉の質が良い素材です。どんな一皿にしようか、ある意味楽しみながら料理をしています。」と話します。
また、料理をすることは、その命を大切にすることとも。「現状、鹿が増えすぎていることもあるみたいなので、田畑を荒らされて困っている農家さんの害獣駆除をしないといけない、でも廃棄をするのではね。うまく言葉にできないですけど、獣害ですが命あるもの。廃棄ではなく、食材として新たに活用して、命あるものを大切に思い残さずに料理をして、いただくことができるのなら、素晴らしいことだと思います」。
「丹波もみじフルコース」は、1万6500円。アミューズから始まり、前菜2品にスープ、お口直しのシャーベット、メイン料理、デザートと飲み物まで付きます。また、「アグリフレンチフルコース」は、6050円で、前菜は1品ですが、同じようにアミューズからはじまりデザートと飲み物まで付きます。
冷たい前菜には、丹波もみじとフォアグラのテリーヌサラダ仕立てを。丹波もみじの首や肩などよく動いている筋肉質な部分を使うといいますが、旨みが詰まった部位で、鹿は脂が少ないお肉なので、フォアグラを使いカバーした一皿。状態のいい鹿のレバーが入ればそれも使う料理ですが、どうしても最初に傷み始めるレバーはなかなか手に入りにくく、鶏のレバーで代用することもあるそうです。
メイン料理は、丹波もみじの背ロースのロティなどが用意されます。背ロースは、一番柔らかくステーキにしてもおいしい部位です。写真は、ガーデンハックルベリーという、珍しいベリーのコンフィチュールを使う甘酸っぱいソースで、塩見さんの父親による福知山産の季節野菜をソテーして添えられています。
塩見さんは「鹿肉ということだけで敬遠せずに、まず味わってほしいです。そして、鹿肉の部位ごとにおいしさがあることを知っていただけると嬉しいです」。
ランチで知った気軽さから一歩進みフレンチの食文化も楽しめる店
『Bistrot q』は、誰もが入りやすいお店です。特に、地元の女性やファミリーから好評を得るランチが「1日50個限定フレンチハンバーグ食べ放題」1380円(税別)。焼き立てアツアツのハンバーグが、スキレットで提供されます。サイドメニューやトッピングは別オーダーで味わえるので、どれにしようか悩みながら楽しい時間になるそうです。
塩見さんは「誰もが好きなハンバーグを、粗挽き、細挽きにした合い挽きに、淡路島の玉ねぎ、地元の卵などのこだわり素材で、1個100gにして丁寧に作っています。フレンチハンバーグと名付けていますが、この味を知って店にお越しいただいて、大人になって食文化に興味を抱いたら、ジビエやフランス料理を楽しんでいただけるとありがたいです」。
塩見さんが福知山市を離れたのは十代の頃。その時は、この街から出たいと思い続けていたと話しますが、今はその逆。「こんなに面白い街は無い」と一言。自然が豊かで、便利な街の要素もあるといい「観光の方に向けては、福知山城などがあり、ここに住んでいる方に向けては、由良川でも川エビ獲りができますよとか、僕らが見落としているような場所にも楽しい場所あるよって、もっともっと伝えていけたらいいなと思います。」と塩見さん。丹波もみじを使うジビエコースもその一つかもしれません。
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