食らし旅

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地域のアクション

〈海の京都 森下裕之さん〉 地域の農業をあらゆる角度でサポート!
久美浜を元気にする「田園紳士」
久美浜、北近畿の野菜を広める紳士の活動

2021/03/03

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整えられた口ひげに、稲が頭を垂れる山高帽。
つい丁寧におじぎをしたくなるような、気品ある佇まいの看板を掲げる「田園紳士」は、農家さんの代わりに販売をサポートし、京丹後の豊かな恵みを各地へ発信する会社です。
「田園紳士」の名前は明治時代に、奇しくも同じ久美浜町の地域活性化に取り組んだグループが名乗っていた「田舎紳士論」からいただいたそうです。

—研究室から久美浜へ

森下さんは2013年、「久美浜まるごとプロデュース協議会」に地域おこし協力隊員として久美浜町へやってきました。
京都府立大学大学院で農業経営学を研究していた森下さんは、当時講師としての道を歩むか、大学の外で活動するか迷っていたそうです。京丹後へは府立大学が持つ棚田の収穫体験などで何度も足を運んでいて、販路の少なさという地域が抱える課題にも気づいていました。その時地域おこし協力隊(当時は農林水産省「田舎で働き隊」)の募集を知り、やはり自ら地域の活性化に関わりたいと応募を決めました。

任期中は「消費者と直接交流がしたい」という農家さんの声を受けとめて農業体験ツアーやイベントを企画するなど、精力的に活動を展開。その時、販路拡大をめざして集まった農家グループ「田園紳士」を結成したのがはじまりです。当時集った8人の若手農家さんは、研究で訪れていたころから交流のあった方が多く、地域にもすんなりなじめたそうです。

移住してきたころから、地域おこし協力隊員としての任期が終わってもそのまま定住することは視野に入れていたという森下さん。任期中に基盤をかため、2016年に株式会社化しました。現在、田園紳士は京丹後の安心・安全な農産物を全国に届けるため、幅広く農家をサポートする事業を行っています。

田園紳士の大きな役割のひとつは、仲卸としての機能です。
「普通の仲卸さんは拠点が卸売市場で、市場目線で仕入れを行います。対して生産の現場に軸足を置いている田園紳士は、農家目線で取引ができることが強みです。大きな違いは、小ロットの販路でもすぐに対応できるところと、農家さんと情報交換の密度が濃いこと。もともと個々人で販路を持つことの多い京丹後野菜の流通体系に合わせたかたちになっていると思います」

民間企業となったことで、久美浜だけでなく京丹後全体やお隣の豊岡市の若手農家との取引もできるようになりました。それにより、販路のボトルネックになっていたことのひとつが解決できたそう。

多くの農家が減農薬、有機栽培に取り組み、生産者の技術も申し分ない京丹後の野菜。ですがどうしても収穫のタイミングが合わず、出荷できない端境期があることが課題でした。スーパーマーケットなどは安定供給が絶対条件ですから、取引の舞台に上がることも難しかったのです。
そこで森下さんは、地元のドラッグストアを皮切りに、東京都内の高級ス―パー「東急プレッセ」に「田園紳士」としての特設棚を設けてもらい、まず販売先を確保しました。そこに京丹後の作物のほか、豊岡など北近畿エリア全体の農家の野菜を置くことで、安定的に商品を供給できるようになりました。

—売れる商品づくり

また、農家さんの収益アップのために、人気のある野菜や消費者ニーズを農家さんに伝えたり、商品開発やパッケージデザインの相談に乗るのも、田園紳士の仕事です。

素朴なパッケージから、若者や都会のトレンドを取り入れたおしゃれなパッケージへの変更には、森下さんと同じく京丹波に移住してきた若手デザイナーたちの手を借りることもしばしば。また、近年誕生した缶詰工場と協力し、規格外の作物から新商品を生み出すなど、農家さんの販路拡大につながることなら何でも関わっていくのが森下さんのポリシーです。

ほかには、「ファイトリッチ野菜」の産地化も進めています。
「ファイトリッチ」は、タキイ種苗が開発した種で、機能性成分を豊富に含んだ野菜が育ちます。もともと京丹後で生産していた農家さんもあったのですが、普通のトマトやにんじんとして出荷していたそう。それではもったいない、きちんと付加価値のある野菜として売り出そうとタキイ種苗と協働して京丹後に作付け面積を確保し、ひとつのブランド野菜として市場に出回るようになりました。

—直売所で食べて、ふれあう観光

実は、久美浜へ移住してきたころは卸業というよりも、観光と農業を結びつける取り組みを中心にしようとしていたという森下さん。外から人を呼び込むことで地域活性化の呼び水にしたいと考えていたそうです。

その思惑がひとつ実を結んだのが、森下さんが企画し、2018年に始まった「京丹後フルーツトレイル」です。
京丹後、特に久美浜には、京都の中でも果樹農家がたくさんあつまっているのも魅力のひとつ。メロンやすいか、桃など、全国のブランドフルーツにも負けない品質だといい、各果樹園も直売所を抱えています。一方でお中元・お歳暮での高級フルーツ需要が減りつつある今、若者需要の呼び込みは必須でした。そこでドライブがてら、おいしくておしゃれなドリンクをはしごできるイベントを考えたのです。

フルーツトレイル参加店舗は、大きさや形が規格外で出荷できないフレッシュフルーツを、たっぷり使ったドリンクを用意。消費者はスタンプラリーのようにいくつかの店舗を巡ればおみやげがもらえます。
直売所まで買いに訪れる人を増やし、また実際に消費者とふれあうことで農家さんのモチベーションもアップ。特に2020年は新型コロナウイルスの影響で、郊外へのドライブ人気が高まり、フルーツトレイルも大盛況のうちに終わりました。

—農家さんが本当にやりたいことを

手広く事業を手がける田園紳士ですが、いつでも心にあるのは農家さんが本当にやりたいことを手助けする、ということです。
「たとえば行政としても地域活性化のために様々な取り組みを打診したり、補助金を用意してくれることがあります。けれど、地域に暮らす人の中から『やりたい』と声が上がったことでなければ、対象期間が終わると廃れてしまうことってよくあるんです。なので地域おこし協力隊時代のパイプを生かして、農家の声をダイレクトに行政に届け、提案できることも私の立場からできること。地域のみなさん自身の力で地元を活気づけていくのが一番大切なんです」

これからも地域のため、消費者と生産者の間に立ちながらサポートの手を広げていきたいという森下さん。田園紳士が農家さんと消費者をつなげたとき、どんな化学反応がこれから起こっていくのか楽しみです!

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