【京都・天橋立~西舞鶴】 “海の京都”を味わいつくす 走るレストラン「丹後くろまつ号」で出合う“海と山の恵み”
自然と列車が織りなす旅の一皿
日本三景の一つ「天橋立」の駅のホームに、威厳を感じさせる黒塗りの車輛が到着する-木目調の車内と大きな窓、京都丹後鉄道が誇る観光列車「丹後くろまつ号」。乗車口のアテンダントに迎えられ、出発前から醸し出される非日常の雰囲気。この日の目的は、(2025年)秋冬限定のランチコース「羽衣天女御膳」。丹後に伝わる羽衣天女伝説(※)をテーマに、旬の海の幸・山の幸をふんだんに盛り込んだ料理を、車窓の風景とともに味わえる贅沢な時間。西舞鶴までの約1時間45分、「地産地消」の料理と名勝の景色が織りなす物語が始まります。
※「羽衣天女伝説」=8世紀編纂の『丹後国風土記』には、天から舞い降りた天女が水浴中に羽衣を隠され、人と結ばれる物語が記されている。丹後地域は、そのほか、浦嶋子(浦島太郎)を祀る浦嶋神社(京都府伊根町)や絶世の美女と称された小野小町、源義経が愛した細川ガラシャなど、女性にまつわる物語も数多く息づく、神話や伝説に彩られた地域。

走り出した瞬間から、旅は始まる
発車ベルとともにゆっくりと走り出す列車。窓から差し込む柔らかな日差しがテーブルを照らします。

ほどなくして視界に飛び込んでくるのは、「天橋立 横一文字(よこいちもんじ)」や京都丹後鉄道の中でも随一の絶景ポイントである奈具海岸。水面に映る空と緑が、まるで絵画のように広がる光景です。

コース料理の前菜は、天女の里の蒟蒻(こんにゃく)を使った旨煮や米麹の甘みが広がる「粟麩田楽(くりふでんがく)」、近海で獲れた「バイ貝と旬野菜 塩麹炒め」、そして「天使の海老旨煮」。さらに、「香住蟹の水晶巻き」は花のように美しく、透明感のある生地と塩ポン酢ソースが蟹の旨味を際立たせます。
“走るレストラン”の幕開けです。

海と山の恵みが一皿に
向付は「旬のお造里三種盛り」。
添えられたのは羽衣天女の絹のように軽やかな衣をイメージしたという泡醤油。セントラーレ・ホテル京丹後(京丹後市大宮町)と大正元年創業の小野甚(おのじん)味噌醤油醸造(京丹後市峰山町)による特別なブレンド醤油が魚の旨味を引き立てます。

続く、焼物は「鰆吟醸味噌幽庵焼き」。
1895年創業、竹野酒造(京丹後市弥栄町)の酒粕を使った幽庵地に漬け込んだ鰆に焼栗が散りばめられた、ほのかな甘みと芳醇な香りが調和する一品です。

焚合わせには、丹後の高級魚、甘鯛(ぐじ)を湯葉で包んだ「ぐじ東寺蒸し」。
鰹の出汁が効いた餡(あん)をまとった甘鯛に、いくら、山葵(わさび)、振り柚子が添えられた、目にも美しい優美な仕上がりです。

地産地消を体現する「五穀豊穣の願い」
メイン料理の強肴(しいざかな)は、日本海を望む、標高400メートルの緑の高原に広がる「碇高原牧場」で育てられた京都府初の”循環型”ブランド和牛「琥珀和牛」のステーキ。
炭火で香ばしく仕上げられた和牛は、しっとりした肉質と豊かな旨み。
添えられた香味野菜は、農薬、化学肥料を一切使わない独自の自然農法にこだわる自然耕房あおき(京丹後市大宮町)のオーガニック野菜を使用。この地域の恵みをまるごといただける一品です。

御飯は、蓮の葉で包んで蒸しあげた「もち麦入りの炊き込み御飯」。
羽衣天女が五穀豊穣の神として祀られてきた故事にちなんで調理された御飯は、滋味深い味わい。天へ帰る天女の幻想的な様子を三日月型の玉子豆腐で表現した止椀も、地域の物語を深く感じさせてくれます。


水物(デザート)は、ヨーグルトよりもまろやかな酸味とクリーミーな食感が特徴の、フランス語で“白いチーズ”を意味するフロマージュブランを使った「羽衣プリン」。

京丹後産梨のジュレとシャインマスカットの爽やかな甘みとともに、京都丹後鉄道オリジナルの「丹鉄珈琲」を味わえば、旅の締めくくりにふさわしい穏やかな余韻が広がります。
※季節によりフルーツが変更となる場合がございます
時間までも味わう贅沢
途中、全長約550メートルの鉄道橋として京都府内最長を誇る「由良川橋梁」を渡ります。
青く輝く水面。遠くに連なる山並み。列車の動きとともに移ろう雄大な風景。

流れる景色と味わう料理が、ゆるやかに溶け合うひととき。時間までもが料理の一部となる、走るレストラン「丹後くろまつ号」の車内では、移ろう風景とともに食事が進むごとに、日常から一歩ずつ離れていくような感覚を覚えます。

終着駅で感じた「余韻」と「一抹の寂しさ」
美しい風景と料理に心を奪われているうちに、1時間45分の旅も本当にあっという間。
列車は終着駅の西舞鶴駅へ。
アテンダントの最後の挨拶が終わると、自然と乗客から万雷の拍手が響きます。ただ、満ち足りた余韻が広がりながらも、降車する際に感じたのは「非日常の特別な時間が終わる」という「一抹の寂しさ」でした。
それほどまでに、この旅は特別な体験だったのかもしれません。

「食べること」と「旅をすること」が自然にひとつとなる瞬間の数々。丹後の海と山の恵み、そして人の想いが紡ぐ物語。ただの移動でも、ただの食事でもない、“走るレストラン”という名にふさわしい、豊かな時間が確かにありました。

旅がもたらす一皿の記憶
今季の「羽衣伝説」をモチーフにしたコースをはじめ、「丹後くろまつ号」では、季節ごとに異なるテーマで、地域の風土や文化を映し出す物語が紡がれています。
それぞれのコースに共通するのは、地元の恵みを未来へとつなぐ想い。
走るレストランは、地域の風土や文化を、味覚を通して静かに語りかけてくれます。

次の週末、もし特別な時間を過ごしたいなら—。
列車に揺られ、丹後の海と山の恵みに出会う旅へ出かけてみてはいかがでしょう。
その一皿一皿が、きっと忘れられない記憶として、心に刻まれることでしょう。

「丹後くろまつ号」~ 完全予約制の食事付コース~

※いずれのコースも「金・土・日・祝」のみ運行
<~2026年3月までの期間限定コース>
◉モーニングコース(7,000円)
~大江山鬼退治伝説の地を味わう~
福知山駅(10:08)⇒天橋立駅(11:48)
◉ランチコース(15,000円)
~羽衣天女御膳~
天橋立駅(13:05)⇒西舞鶴駅(14:50)
◉海上自衛隊 舞鶴地方隊コラボコース(4,500円)
天橋立駅(16:05)⇒西舞鶴駅(17:24)
~護衛艦 みょうこう ビーフカレー<丹後くろまつ号スペシャル>~
舞鶴ゆかりの海上自衛隊カレーが登場する特別コースがスタート!

※「丹後くろまつ号」の各コースは、季節や年度により内容が異なります。詳細につきましては、HPをご確認くださいますようお願いいたします。



